目覚めの一杯は、浅煎りの豆がいい。
拘りのコーヒーを揃いのマグカップに注ぎ、両手に携え寝室に入った左馬刻は、ベッドに腰掛け窓の方を見ている寂雷に、その片方を手渡した。
「ありがとう。……いい天気ですね」
「おー。どっか行くか? 釣りとか」
大きな窓の向こうには、雲一つない青空が広がっている。コーヒーを一口飲んだ寂雷は、既に高い位置まで昇っている太陽の光を遮るように、目の上に手を翳した。
「あまり晴れていると、釣りには向かないんだ。魚が仕掛けを見破ってしまうからね。……それに」
カップを持っていない寂雷の右手が、左馬刻の左手に重なる。寝起きの低い体温と、滑らかな陶磁器のような手触りが、無性に心地いい。
「こんな日に、のんびり家で過ごすのも、いいと思わないないかい?」
「……違いねぇな」
交わした苦い口付けは、甘い一日が始まる合図。