寂雷の家には、様々な飴が入ったピンク色のバスケットがある。
物が少ない家の中で目を引くそれはもちろん家主の趣味ではなく、TDDで集まる際乱数が勝手に持ち込んだ物だ。飴は乱数と衢、時折寂雷と一郎が消費してはまた乱数が勝手に補充をしていたが、今、その中身を減らしているのは寂雷と、以前は手をつけなかった左馬刻だけだ。
TDD解散後も寂雷との付き合いは変わらず……むしろ関係が深くなった左馬刻は、寂雷の家に来るたびに一つ、飴を食べるようになった。
その日も左馬刻は時間が空いたから、と寂雷の家にふらりと立ち寄り「仕事中なので少し待っててもらえますか」と言われ、パソコンに向かう寂雷を眺めつつ適当な飴をバスケットから取って、袋も見ずに一つ、口に入れた。
その瞬間。
甘ったるい果物の味に身構えていた左馬刻の舌を、痛いほどに辛いキシリトールが襲った。
「ぁんだっ、これ」
予想外の刺激に驚きながらもなんとか舌の上に留めた飴はヒリヒリと左馬刻の口から温度を奪っていく。ぐちゃぐちゃでも手に残っていた袋を見ると、ミントの絵が大きく印刷されていた。
「ああ、この間眠気覚ましに買ったんだ」
「……いつもの甘いやつかと思った」
大きな声を出してしまった羞恥から目を逸らした左馬刻の頬を、大きな手が包む。上を向かされた左馬刻の視界が寂雷で一杯になり、半開きだった口から長い舌が入り込む。
「っ!?」
更なる驚きで身動きが取れない内に寂雷の舌が飴を絡めとって、ついでとばかりに、一瞬唇が強く合わさった。
「……確かに、ちょっと辛すぎるね」
寂雷はそのまま口の中で飴を転がしつつ、パソコンの方に戻っていく。
「先生…それ、終わったら、覚えてろよ……!」
振り向いた寂雷が「早く終わらせます」と嬉しそうに笑う。左馬刻は、今度はちゃんと袋を確認し、もう一度同じ飴を口に入れた。
さっきは痛みを感じたほどの清涼感が、上がった体温を落ち着かせるには、丁度良かった。