しゅる、しゅる、と静かな音を立てながら、柘植の櫛が寂雷の髪を滑る。ほつれの無い菫色を無言で梳き続けている左馬刻はどうやら虫の居所が悪いようだが、それをぶつけないよう少し距離を保とうとしている不器用な優しさに、寂雷は思わず笑みをこぼした。
「…んだよ」
拗ねたような声に振り返ると、憮然とした表情とは裏腹に、目の前の獲物に今にも飛びかかりそうなほどギラついた紅い瞳と目が合って、寂雷はへの字の唇に軽くキスをした。
「キス、したいのかと思ったけど、違ったかな?」
悪戯っぽく笑いながら尋ねた寂雷の顎を掴み、左馬刻が唇を押し付け舌を絡める。暫しの間、水音だけが部屋に響いた。
「合ってっけど、足りねぇ」
息継ぎの合間に、低い声が落ちる。再びぶつかるように食らいついてきた唇を受け止め、寂雷はそっと目を閉じた。