夜勤明け、この時間の空も随分明るくなってきたな、と寂雷は薄い雲越しの太陽を見上げながら一つ深呼吸をした。今日は車を置いてきているので、人通りのまばらなシンジュクの街を自分の足で歩き出す。
(そういえば、神社の桜が咲き始めたと一二三くんが言っていたな)
季節の移ろいには敏感なチームメイトの言葉をふと思い出し、シンジュクの人間なら一度は訪れたことのある神社に足を向けた。
寂雷を出迎えた桜は三分咲きで、花曇りの空の下、淡いピンク色をじわじわと枝に広げようとしている。その美しさに思わず写真を撮り、メッセージアプリを開いた。なんとなく彼の声が聞きたくなり、電話のマークをタップしようとして、時間表示に目が止まる。流石に起きていないかもしれない、と写真だけを送ったらすぐに既読がつき、端末が震え出した。
「左馬刻くん、起きていたんだね」
『センセーもな』
声のトーンで同じようなことを考えていた事を察し、寂雷は柔らかく微笑んだ。
「そちらは、桜は咲いているかい」
『おー、見頃まではもう少しだな。
……そういや、銃兎がセンセーんトコのリーマンと飲みたいって言ってたぜ』
「おや、それでは、皆で花見でもするかい」
『いいな。…センセーは、飲むなよ』
「分かっているよ、記憶が無くなるのは勿体無いからね。こちらの予定を纏めたら連絡するよ」
『分かった。んじゃ、またな』
「また、ね」
電話を切って、そのままチームのグループトークを開く。花見に誘うメッセージを送って、端末をしまった。六人全員の予定を合わせるのは簡単ではないけれど、きっと、楽しい時間になるはずだ。神社に背を向けた寂雷の肩に、ひらりと、桜の花びらが落ちてきた。それを払わずくっつけたまま、寂雷はシンジュクの街を再び歩き出した。