#せんせいとおれさま十歳年下の恋人が出来てから、寂雷の日常には少しだけ、変化が訪れた。
窓の近くに、灰皿を置くようになった。洗面台の歯ブラシが、一本増えた。無意識に、白や青の雑貨を選んでしまう。
……ここまでは、こそばゆさを感じつつも、楽しく感じる変化なのだが。
(舌が、肥えてしまったな)
自分で淹れたインスタントコーヒーをひと口啜り、寂雷はため息をついた。少し前まで、コーヒーにそこまで拘りは無かったのだが、どうにも物足りなさを感じてしまう。仕方がないので端末のメッセージアプリを開き、短い文章を送った。
『左馬刻くんのコーヒーが飲みたいな』
数分も経たずに既読が付き、ポン、と軽い音と共に返信が来る。
『すぐ行く』
端末を置いた寂雷は満足気に微笑み、嬉しそうに呟いた。
「責任は、とってもらわないとね」
ーーとびきりのコーヒー豆を手土産に左馬刻がやって来るまで、あと、一時間。