Happy Birthday 2022寝るまでは二人でも、起きたら一人だった、というのは、そう珍しくもない。何しろ、共寝していたのは神宮寺寂雷。シンジュク代表麻天狼のリーダーであり、世界中の人を救いたいなどという大それた野望を抱えた天才医師だ。分刻みのスケジュールで動いている日もあるし、その優先順位は常に自分よりも他人が先だ。
それでも今日くらいは、なんて、らしくない考えが浮かび、左馬刻は「大切にされること」に慣れてしまった自分に呆れため息をついた。とりあえず顔でも洗うかと洗面所に向かい、そこの鏡で見た自らの姿に、何となく違和感を覚える。
(……こんなピアス、持ってたか?)
左馬刻の耳についているのは、小さな石が嵌まった見覚えの無いピアス。その透き通る蒼がちらりと光った瞬間、脳の回路がバチっと繋がり、言いようのない嬉しさが込み上げる。とんぼ返りで寝室に戻り電話をかけると、あの愛おしい声が響いた。
『左馬刻くん、お誕生日おめでとう。ごめんね、もう少し居たかったのだけど』
「今日から忙しいだろ、気にすんな。それより先生、このピアス…」
『ああ、十一月の誕生石、トパーズです。イエローの方が有名だけど、君に贈るならやはりブルーかなと思ってね』
「なあ先生…それだけじゃ、ねえだろ?」
電話の向こうで、寂雷が小さく息を呑む気配がした。自分で指摘しても良かったが、寂雷の言葉を聞きたくて、静かに待つ。
『…前に、君が褒めてくれたことがあっただろう。私の蒼(め)は、綺麗な色だと。同じ色を、持っていてほしいなと思って…君の誕生日なのに、私の我儘で、申し訳ない』
「なんで謝んだよ。…すげー嬉しい。ありがとな、先生」
我欲をあまり出さない寂雷が、「自分の瞳と同じ色のピアス」なんてものをプレゼントに選んでくれるとは、思ってもみなかった。こんなに嬉しいサプライズは無い。その選択に滲む、寂雷のささやかな独占欲に、自分の愛が独りよがりなものでないことを実感し、心が満たされていく。
「明日と明後日、そっち行くからな」
『ええ。君たちよりも、盛り上げてみせますよ』
「はっ、言うじゃねえか。俺らに勝てるとは思わねえが…楽しみにしてるぜ」
そんな軽口をたたきあって、電話を切る。それからふと思い立って、ぴったりと閉じていた寝室のカーテンを開けた。窓ガラスの向こうには、雲一つない蒼い空が広がっている。
(……今日は、いい日になりそうだな)
ぐっと伸びをした左馬刻の耳で、ブルートパーズのピアスが朝の日差しを反射する。贈り主の瞳に似た優しい蒼色が、左馬刻の新しい一年を祝福し、見守るように輝いていた。