風呂上がり。久しぶりにのんびりと呑みたくなって、親父から貰った年代物のウイスキーを棚から取り出した。グラスに注ぐとスモーキーな香りが漂い舌を乾かし、口に含めば強いアルコールが喉を焼く。古酒らしいまろやかでほろ苦い味わいに気分が浮ついてきたその時、机の上の携帯端末が小さく震え、画面がパッと明るくなる。
無視してやろうかとも思ったが、《カンノンザカ》の名前を見て端末を手に取った。チームシャッフル企画の時に連絡先を交換してから、この男からは時々連絡が来る。……もちろん、あの企画が終わった今、俺たちの共通点なんて、たった一つだ。
『先生がお酒を飲んでしまって…碧棺さんをお呼びです!来てもらえますか?』
そんなメッセージと一緒に送られてきたリンクで店の場所を確認し、すぐ行く、とだけ返す。飲んでいたウイスキーの他に目についた酒を適当に引っ掴みながら家を出て、若衆に電話をかけた。
「今すぐ車、シンジュクまでだ」
*
「……ぅい〜、っく」
「ったく、あのホストがいる店とはいえ、なんでホストクラブでミーティングなんてしてんだよ……一歩間違えりゃこーなんのは分かんだろ……」
酒臭いしゃっくりをあげる先生をなんとか寝室まで運び、デカいベッドに転がす。抱えているウイスキーボトルを回収しようとしたら、寝落ちる寸前の半目がパチっと見開かれた。
「左馬刻ぃ!てめぇ、ちゃんと飲んでるかぁ〜?」
起き上がった先生に肩を組まれ、ゴロンと落ちた酒瓶の転がる音がする。普段、先生の方からこんなに距離を詰められることは珍しい。ちゃんぽんされた酒の臭いがつんと鼻について、それでも回された腕を振り払えない自分に、はあ、と小さくため息をついた、その時。
いきなり顎を掴まれ、グイッと強引に上を向かされた。と思ったら、口の中に熱いものが入ってくる。長い舌に口内を舐め回され、先生がにんまりと笑う。
「いい酒飲んでんじゃねぇか、左馬刻」
「くそ……センセーにも飲ませてやんよ」
床に転がったウイスキーボトルには、まだ半分ほど中身が残っていた。それを口に含み、今度はこっちから唇を奪ってウイスキーを流し込んでやる。先生の喉仏がごくりと動いて、少し苦しそうな声を漏らした。
「んぅ…っ」
ーー上擦ったその声が、あまりにも。
普段…このベッドの上で、何度も聞いた声と、全く同じで。
アルコールに濡れた体に火をつけるには、十分すぎるほどの衝撃だった。
「先生…っ」
自分より大きい体を真っ白なシーツに押し倒すと、蒼い瞳がぱちぱちと瞬きをして俺を見上げる。それからニタァ、と挑発的な笑みを浮かべ、立てた膝で俺の股間をすり、と撫でた。
「元気だなあ?サマトキクンは♡」
「寝かせねえから覚悟しとけよ…!」
もう一度奪った唇は、とろとろに甘いウイスキーの味がした。