ウテ◯アニメ一話パロ 天空に浮かぶ城が見守る決闘場。生徒会副会長、西園寺莢一は、散らされれば敗北となる薔薇の花を胸に飾り、此度の決闘者、コビーと向かい合う。立会人である薔薇の花嫁、ヘルメッポは西園寺の側へ侍り、力を解放するための詠唱を澱みなく歌い上げる。
「わたしに眠るディオスの力よ、あるじに答え、今こそ示せ――」
人形のような無機質で従順な表情を浮かべたヘルメッポが、西園寺の腕に体を委ねて瞳を閉じる。反らされた胸が強く輝き、光の中から現れたのは、薔薇をあしらった剣。西園寺は愛剣の柄をしかと握りしめ、所有者に相応しいスラリとした片手剣(レイピア)を引き抜く。
「世界を革命する力を!」
刀身を保護する役目を終えた鞘を脇へ追いやり、竹刀を持ったコビーと対峙する。互いに一歩踏み込み、小手調べの打ち合いをひとつ。コビーは両手持ちで斬撃を仕掛けてくるが、片手で受け止めても問題ないほどに、軽い。即座に後ろへ跳び衝撃を軽減したところを見ると、運動神経は良いようだが。剣道部の主将である自分の敵ではないと、部員へ稽古をつけてやるかのような余裕を持って打ち合いを続ける。一撃、また一撃と打ち込むごとにコビーの対応が遅れ、西園寺の勝ちは揺るぎないものになっていく。
「ははははは! 中々やるじゃないか、素人にしては」
「ぐううっ!」
いよいよ西園寺の斬撃を跳ね返しきれなくなったコビーは、押し切られぬよう必死に竹刀で受け止めている。身の程知らずにも目の闘志が絶えぬ挑戦者へ、最終宣告の言葉をかけた。
「弱者を守る英雄(ヒーロー)のつもりで、挑んできたのかい? 君では力不足だよ」
「うわっ!」
止めとばかりに繰り出した、大振りの薙ぎ払い。コビーの竹刀は切り払われ、短い棒切れと成り果てた。鋭い切り口を見て、驚愕の表情で問いかけの言葉を発する。
「まさか……その剣は、本物なんですか」
「何の変哲もない竹刀で、この剣に挑もうとは。次の一撃で、薔薇を散らしてやろう」
もはやコビーには、薔薇を散らすための武器はない。勝ちを確信した西園寺は、余裕の笑みを浮かべ決着を宣言する。だがコビーは怯まず、切り刻まれた竹刀を構え突進してきた。
「うおおおおっ!」
「なにっ!」
リーチの差が覆るはずはないと剣を構え、胸の薔薇目がけて一閃を放つ。だが剣先の軌道はコビーに読まれていた。間一髪、剣の下をくぐるように斬撃を避け、懐へと入り込む。鋭い短剣と化した竹刀の先で、西園寺の薔薇は切り裂かれ、決着は決した。
「そんな……馬鹿な……」
西園寺は現実を受け入れられず、呆然として自分の花嫁を見る。ヘルメッポはいつも通り、従順そうな微笑みを湛えてこちらを向いていた。そうだ、これは何かの間違いに違いない。きっと薔薇の花嫁はまだ自分を所有者と認め、西園寺様と呼んでくれるはず――。
「ふっ」
だが次の瞬間聞こえてきたのは、鼻で笑うかのような短い吐息。みるみる間にヘルメッポの表情が、見たこともない挑発的な笑顔へと変わっていく。
「ごきげんよう。西園寺"センパイ"」
ヘルメッポは先輩へ背を向け、勝者であるコビーに寄り添い、胸を張って誇らしげな表情を向ける。コビーは凛とした表情で、ヘルメッポの前に立ち騎士のような佇まいで西園寺を見つめていた。
「あ、ああ……」
ようやく敗北を認めた西園寺は、力が抜けその場へ膝をつく。何をどう間違えて、このようになってしまったのか。
(……いや、間違っているのは……)
剣道部主将として、生徒会副会長として日々研鑽を積んできた自分に間違いなどあるはずがない。あるとすればそれは――ヘルメッポの方だ。コビーこそが真の所有者であるとでも言いたげな振る舞いをして、忠誠を誓ったはずの西園寺をあっさり捨てたのだ。
(おのれ……おのれえぇっ!)
必ずヘルメッポを取り戻し、罰を与えねばならぬと怒りか燃え滾る。再戦への闘志を胸に立ち上がり、決闘場を立ち去ったのだった。