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    Cloe03323776

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    Cloe03323776

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    初の赤犬。
    外科医の赤犬と、患者の少年鰐。
    花蝕症という捏造の病気が出てきます。
    冒頭に説明があるので、苦手だと思ったらすぐブラウザバックで……

    #犬鰐
    dogwan

    風花風葬「やっぱり。サカズキ先生は、焼くのが上手だ」

     体の内部にかなりの時間をかけて植物の根が張り、育った蔓が皮膚を破って出てくれば、最終的に血液を吸い込んだような赤黒い花を咲かせる。その症状の名は「花蝕症」。
     先天的な病で、生まれた当初はほぼ気付ける医者はいない。成長していく中で、じわじわと内部で育っていった植物が、少年期の間で皮膚を食い破って出てくるのが常だ。
     根本的な治療は不可能で。ただひたすら、患者は植物に喰われきるのを待つしかない。体と、命を。最終的には、内臓、血管、脳、骨、全ての養分を食い尽くされ、内側から破壊される。今の時代においても、治療法は確立していない。
     本来、人間が成長のために必要されること全てが、植物への栄養となってしまう。

     白亜の病室のベッドの上で。その少年は、焼き切れた蔓の痕が残る白い肌を指でなぞり、満足そうに微笑んでいた。およそ三年ほど前にこの病院に救急搬送されてきた。背中に大火傷を負って。以前に彼が通院していた病院の医師が、その蔓の焼き方を誤ったためだ。
     サカズキは。花蝕症の人間から伸びた蔓を、患者の負担が極力ないように「焼き切る」ことに長けている外科医だ。
    「体調はどうじゃ?」
    「順調」
    「にがるようならすぐ呼びんさい」
    「痛みがないと、呼んじゃァいけないのか?」
    「……何か異変がありゃァすぐにでも」
    「クハッ! 分かった」
     独特な笑い方をする少年の、白い病院服の頸から覗く焼け爛れた痕を見るたびに。サカズキは胸に澱んだ泥が広がる。

     なぜ、少年は。最初から、サカズキのいる病院へ来なかったのか。
     そもそも、花蝕症の発症確率はかなり低く、百万人に一人ほどだ。さらに治療法が確立されていないとなれば、それを狙った悪徳な人間がいる。少年の両親は、必死に医院を探し歩いた結果。ある一人の医者に騙された。意味のない、何の効果もない薬を高額に買わされ飲まされ続け。蔓が皮膚より表に出ない内は、多額の金を医者に注ぎ込んだ。
     当然、薬は効果的ではないので。少年が成長した先で蔓が発症し、手術が必要になる。両親は必死にその医者に懇願をした。そこで、話が終われば良かったものを、その医者はなんと手術を決行したのだ。欲に目が眩み、この「金蔓」を手放したくはなかった。
     そうして。大事故が起こった。少年の背中から伸びてきた蔓を切断し、焼く手術の最中で。誤って、背中の全面の皮膚を燃やしてしまった。焼け爛れた皮膚をどうにかするには、移植手術が必要となった。それは、規模の大きい病院でしか難しく。さらに花蝕症の人間である。
     殺してしまうかもしれない。そのことに恐怖を覚えたそのヤブ医者は、必死に病院を探し、サカズキのいる病院を探しあてた。距離はあるが、花蝕症の人間の対応が出来る唯一の医者がいると。火傷に対する最大限の処置をした上で、救急車を呼んで搬送をした。

     意識を失っていた少年は、次に目が覚めた時。全く別の病院にいることに疑問を覚えた。そして、背中の激痛にも。
    「!? ッ──だァ」
     全身がねじ曲がりそうな痛みが、絶えずに迸ってくる。
    「まだ安静にしとらにゃァいけん」
     側にいて、経過観察をしていたサカズキは。すぐに腕に注射器を刺し、鎮痛剤を投与した。それが効くまで、絶えられない激痛に苛まれ、少年は本当に死ぬかと思った。背中の皮膚を再生するために、太ももと腹の肌を移植した。それからがまた地獄のような日々であった。皮膚を再生させることと、同時並行で花蝕症の対応をしなくてはいけないからだ。
     少年は、やり場のない怒りに駆られることが多く。精神的にも不安定になった。騙していた医者への怒り、花蝕症として生まれた己への怒り、この解決策の見えない現状に対する怒り。
     当初は、サカズキに対してすら、反抗するばかりであった。つまりそれは、治療に対して。が、少年の怒りなど。彼にとっては何も、関係がない。
    「治療をするのかせんのか、自分で選びんさい」
     ただ、それだけを淡々と、告げる。
     幾度となく、そのやりとりをしている中で。少年は治療を断ろうとする場面もあった。が、その時は「そうか」とサカズキは受け止めて「じゃったら退院の手続きじゃ」とまだまだ治療の必要な状態の少年の両親へ、実際に連絡を取ろうとする。それに慌てて、少年は「退院はしない」と叫び。「じゃったら治療じゃ」と言われ。渋々、治療を続行することになる。
     そうしている内に。火傷の痕は残ったけれど、もう問題ない状態にまで回復をした。その生命力に、サカズキは驚いた。また蔓を焼き切る手術においても、少年は見事なまでの回復力を見せた。サカズキの手腕が見事なこともあるけれど、何より。少年の体が生きようとしていることを、全身で感じた。
     同時に少年は、サカズキの医者としての真剣さを。その辺りから、よく理解した。そして、己を尊重してくれていることも。以前の医者であれば、言われるがままの治療を受けていたけれど。サカズキは違った。どんな治療をこれから行うのか、どんな薬を投与するのか。少年であろうと根絶丁寧に教えてきた。時には理解が出来ないこともあったが、それを質問すれば、少年が分かるまで説明をしてくれた。そんなサカズキを少年が信頼するまでに、それほど時間は掛からなかった。
     また花蝕症に対する、正しい知識。サカズキは少年に教えた。彼がヤブ医者から聞いていた話は、全て根拠のないことばかりであったからだ。
    「寿命は持って二十年じゃ」
     ある日。真剣に、サカズキは少年と面と向かって、告げた。
     それにびっくりして、目を丸くした少年だったが。そう言われ、己の皮膚を見て。その蔓の生えている痕を見て。深く、息を吐いた。
     それは、そうだろう。と、一番。少年が理解している
    「二十年でも保てば、奇跡だろ」
     何とも言えない、笑顔だった。諦観とも言えず、寂しさとも言えない。その笑顔に、サカズキは目を見開いた。
    「……そうじゃのォ」
     どうすることも出来ない現実を、受け入れる勇気は。まだ、少年は持てない。けれど、少年は。サカズキが治療を続けてくれるなら、大丈夫だと思ったのだ。この男と一緒なら、なんだって出来るような気がした。それほどまでに、心強い存在となっていた。
     同時に、サカズキも。この少年を、どうにかして。救ってやれないかと。考えるようになった。今まで、花蝕症に対しては諦めていた。治療法はないと。研究をするにしても、その予算や時間がない、と。しかし、目の前でただ、植物に喰われ侵され死んでいくことを待つだけの少年を。
     この生命力のある、少年を。

     サカズキは、基本的にいつでも、眉間に皺を寄せているだけれど、その顔を見るといつも少年は、笑顔になる。
    「先生、幸せが逃げるぜ?」
     と言いながら、少年は。サカズキのその顔が好きだった。
     少年は十四歳を迎えていた。残り、およそ。六年。いや、もしかすれば。もっと早いかもしれない。そんな、未来。
     患者の笑顔は、誰であろうと。医者からすれば、尊いものだ。
     けれど、いつからか。この少年の笑顔が。
    「───クロコダイル」
     サカズキにとって、特別なモノになっているのを。
     受け入れる勇気を、彼はまだ。持てない。
     そう名前を呼ぶと、少年は。
     嬉しそうに、また。笑うのだ。
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    Haruto9000

    DONE「クー・フーリンが女性だったら」妄想。
    ※FGO第1部のみの情報で書いていたので、設定ズレなどはご容赦ください。

    【あらすじ】
    スカサハのもとで成長したクー・フーリンは、敵国女王オイフェとの一騎打ちで勝利した。
    だが、喜びも束の間、彼女の活躍をよく思わない弟子仲間たちに薬を盛られ、暴行を受けてしまう。
    ひどい精神的ショックを受けた彼女を救いたいと思うフェルディアだったが…。
    ミラーリング #9(影の国編:中編)暗雲
     キィ、ときしんだ音を立てて扉が開く。フェルディアは顔をあげた。
     暗い顔で出てきたウアタハは、フェルディアの姿を見て驚いたように目を丸くする。
    「ずっと待ってたの?」
    「ああ。──あいつは?」
    「眠ってる。……でも」
     ウアタハは痛ましげに眉をひそめた。フェルディアは再びうつむいた。


     クー・フーリンが気を失った後、フェルディアとスカサハはもたもたしてはいなかった。
     フェルディアがマントで包んだクー・フーリンを抱き上げると、スカサハは「ウアタハの元へ行け」とだけ告げた。
     スカサハの双眸は冷え切っていたが、奥底に溶岩のように滾りたつものを感じ、一番弟子は久しく見なかった師の怒りに足が震えた。
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