交換条件『少年』
出逢って短期間だというのに、耳になじむ声音。
そして、出逢った当初に比べて圧倒的に感情が籠っている呼びかけ。
「……勝てると思ったんだよ」
黄金の双眸に映るは、小さな赤色。四神の一角、宙を優雅に舞うスザクである。
仲魔の殆どが瀕死の中、なんとか退避に成功したナホビノは舌打ちをするも、再び半身から呼ばれて肩を竦める。
『少年』
三度繰り返されるナホビノの意思を象る二文字。
『私は、君に傷ついて欲しくない』
諫めるようでありながら、切実なる願いが伝わる想い。
「じゃあ――」
――アオガミも、自分を大切にして。
まるで交換条件のように口から飛び出しかけた言葉。けれども、ナホビノはなんとか耐えることに成功した。
アオガミならば、条件を持ち掛ければ頷いてくれるだろう。しかし、それはナホビノの望みとは異なる。
(互いに互いを担保にするなんて、出来ないよ)
同時に、ナホビノは己の無謀な行為を恥じるのであった。
先ほどまでの勇み足はすうっと引いていき、半身を心配させ、仲魔達を巻き込んだ事に対する後悔が湧き上がる。
『何だろうか?』
「……何でもない。じゃあ、もっと強くならなきゃって」
『その為には相手の力量を把握する事も重要だ』
「アオガミの言うとおりだ」
『少年?』
「もう、無謀なことはしないから」
ナホビノの変容に疑問が浮かぶアオガミであったが、彼はそれ以上の追及を行わなかった。彼の言葉が真であると、半身であるアオガミには理解が出来たからだ。
「みんなに謝らなきゃな……。ついでに、何か美味しいものでも……」
ぶつぶつと呟きつつ、ナホビノは砂塵を蹴る。
一筋の青筋がダアトの地を再び駆け巡るのであった。