No Life No... 「アオガミも聴いてみる?」
背筋をピンと伸ばし、寮室内の角で佇むアオガミ。居心地の悪さ故に少年が提案したのは、音楽のサブスクリプションであった。
「だが、それは少年のアカウントではないのか?」
「シェア出来るプランがあるから、それに入るよ」
「しかし」
「あー……えっと、追加分は越水長官とかに請求するからさ」
アオガミの声音から懸念を察知し、少年は咄嗟に自分の上官にあたるであろう男の名前を出した。実際に請求するかは別であるが、自身に負担がないことを告げねば青髪の男は首を横に振ると確信を持ってしまったからだ。
「承知した。私が請求書を提出しておこう」
「わ、分かった」
最も、呆気なく半身に先手を打たれてしまったのだが。
――そんなやりとりがあった日から、あっという間に数日が過ぎた。
通学という日常が崩壊し、定時通りに起きる必要がなくなった或る日。アオガミのメンテナンスの為、久々に一人になった少年は音楽アプリを起動した。今まではなんとなく聴いていたのだが、最近はダアトでの戦いや仲魔達との交流、アオガミと過ごすという新しい日常が生まれ、なんとなくで聴くことがなくなっていたのだ。
「……ん?」
起動して早々、少年は首を傾げた。起動した直後の画面に見たことがないプレイリストが表示されていたのである。『Share List』と名づけられたプレイリストが。
(『シェアプラン』に入ったからか)
複数人で一つのアカウントを共有することが出来るという、少年が利用している音楽アプリ独自のプランであった。明らかに自動生成されたように見えるプレイリストであったが、少年は数秒思考したのち、プレイリストの再生ボタンを押下していた。
気になってしまったのだ。アオガミが、一体何を聴いているのかを。
(俺が寝静まった後に聴いている……っぽいのは知ってたけど)
アオガミが一体、何の曲を聴いているのか。
そして、音楽が流れ始め――。
少年は、小さく噴き出してしまった。驚きのあまりに、である。
(お、お経!?)
ロックとか流れるかも、と勝手に想像していた少年の思惑には全く掠らず、流れてきたのはお経であった。慌てて画面を操作すると、プレイリストの内容は正に混沌であった。
(お経、朗読、ゲームBGM、邦楽、民謡……え、歌舞伎音楽とかまであるの?)
そこに広がるのは、少年が全く知らない世界。
そして、アオガミが知ろうとしている、この世界の一部である。
「……」
お経にしばらく耳を傾けていた少年であるが、彼はプレイリストの再生を停止した。そして、久々に自分がよく聴いていた5年前に流行っていた曲を流し始める。
(アオガミは、どんな曲が好きなんだろうなぁ)
――メンテナンスから戻ってきたら、色々訊こう。
アオガミの事を、半身の事を誰よりも知るのは自分なのだと。
音楽アプリに嫉妬してしまった自分に恥ずかしさを覚えつつ、少年はじっと半身が帰ってくるのを待ち続けるのであった。