ふたりのなんでもない日常 ひとりだった頃と比べて、少しだけ大きくなった少年の歩幅。
そんな彼に合わせて、歩幅を狭めて隣を歩んでくれる唯一の半身。
少年は、歩くことが好きではなかった。読書に集中できないし、人込みの中を歩くのは苦手だ。けれども、今は歩く時間が心地よく感じていた。なんとなくで、いつもと違う道を選び、遠回りをしてしまうくらいには。
「――あっ」
ふと、少年は足を止める。
何事かと、隣を歩く神造魔人も足を止めた。
「少年」
どうかしたか、と尋ねかけたアオガミであったが、少年の視線の先を見て口を閉ざす。問うまでもなく、己の半身が足を止めた理由が分かってしまったからだ。
「アオガミ」
少年は隣に立つアオガミを見上げる。
「問題ない」
彼はアオガミの名前を呼んだだけだ。それだけで、少年からの問いかけをアオガミは理解した。――実際の所、呼びかけすら不要であったのだが。
「ありがとう!」
顔を綻ばせ、少年は足取り軽く目的地へと向かう。
彼の視線の先にあるのは小さな古書店だ。二年と少し、殆ど同じ道しか通らなかった少年が見つけた、新たな場所。
(アオガミと一緒に居ると、新しい発見ばかりだ)
自分が好きな作家の本はないか。アオガミが気に入りそうな本はないか。仲魔達が楽しめそうな本はないか。
様々な判断基準を考えながら、少年は意気揚々と店内へと踏み込む。
(少年が嬉しそうで良かった)
そんな少年をアオガミは店外から見つめ続ける。
とある日の、夕暮れの出来事である。