七夕の夜 ――年に数回、弟は目を輝かせて下界を眺める。
黄金の双眸にきらきらと光を灯す青き神は、月の神が手こずる合図であった。
己の力に対する信頼か、周囲の神魔達への信頼か。長い青色の神を靡かせて、彼の神は気軽に世界のあちらこちらに足を運ぶ。
警戒を感じない姿を見る度に、ツクヨミは得たばかりの形のない心がぎゅっと縮まるのを感じた。特にギリシャへと視線を向けた時など。
そんな弟であるが、年に数回のきらきらとした光は、兄を焦らせない輝きであった。
合わせた手の上に顎を乗せ、夜の街をナホビノは見下ろす。
前回は桜満開になった晴れた夜。その前は、寒い冬の夜であったことをツクヨミは思い返す。
そして、今日は七月七日。
青き神々が至高天に辿り着いて以降、ナホビノの『我が儘』で晴天の日の割合が増えた日である。
様々な願いがぶら下げられた笹の葉。幼子から老人まで、様々な字が綴られた色鮮やかな短冊たち。
青き神は人々の願いを叶えることはない。
しかし、数多の願いから目を逸らすこともない。
(今夜は静かに過ごせそうだ)
ゆらゆらと揺れる長い青髪を眺めつつ、ツクヨミは小さく息を吐いた。
傍らの青色がどこかへ行ってしまう気配がない事に安堵しつつ。