「おはようございます! えっと……今日も良い天気ですね!」
「雷雨ですけど?」
彼女はそっと目を逸らした。窓の外は休校になってもおかしくないほどの土砂降りだ。稲光が教室を照らせば数瞬遅れて雷鳴が轟き、制服を乾かしていた生徒たちがどよめく。
「……わたし雨好きです! だから良い天気です!」
「主観」
暴論すぎる。実家で雷神でも信奉してます?
「良い天気ですね! 良い天気ですよね!?」
「自分の価値観を押し付けるな! あと近寄るな触るな手を握るな!!」
こだわりポイントじゃないだろ! 悪天候だろ認めろ! 強行突破やめろ!!
……気づいてしまうこと自体癪ではあるけれど、きっと登校してすぐ、僕のもとへ来たのだろう。彼女の髪が心なしかしっとりとしていて、いつもより少しだけ、……本当に少しだけ、年相応程度には……色っぽく、見えるような気がした。つまり普段は色気のかけらもないということなのだが。
握ってくる手が冷たかったから、気取られないくらいの弱い力で握り返す。
体温低くないか、とか。馬鹿なのに風邪引くぞ、とか。
「良い天気なので──」
言う前に毎朝恒例の台詞が飛んでくる。
「──結婚しましょう!」
「は? しない」
認めるのはものすごく癇に障るが、これが僕の日常である。
僕は毎朝、目の前の少女に求婚されている。
「もー!! なんでですか!!」
「しないに決まってるだろ!!」
そもそも高校生なんだから一般的にしないし。僕と彼女は恋人じゃないし。
毎朝何かと理由をつけて結婚しろと迫られる。昨日は「今朝間違えて左足から靴を履いちゃったので結婚してください!!」だった。知らねえよ!! 間違えたんなら求婚すんな!!
「ねえなんでなんですかー! そんなに可愛くないですか!? 健気だと思いませんか!?」
「僕はプロポーズを二つ返事で了承するような馬鹿じゃないので」
「なんで馬鹿って強調するんですか!」
「お前の脳内がお花畑だからだよ!!」
「お花でいっぱいなら幸せなことじゃないですか!」
「そういうところだっつってんだよ馬鹿が!!」
「わたしが馬鹿だから嫌なんですか!?」
「……もう予鈴鳴るから帰れ!」
「むう……」