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    kurutta_ore

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    kurutta_ore

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    創作ざっくり小説。

    光の行方を集めて:プロローグ「……ふう」
    路地裏。愛用のサーベルを引き抜くと、今まで刺さっていたモノから赤い液体が噴き出した。その赤い液体は身体中に付着し、ベタベタと纏わりつく。
    気にせず自分の服でサーベルについた赤い液体を拭き取り、一人呟く。
    「この「仕事」にも随分慣れた…」

    そう、これはただの「仕事」なのだ。

    頭上から気配を感じ、主を探す。
    「悪ィ遅れた!…ってもう終わってる。流石だな八代は」
    屋根づたいに急いで移動してきたのか、少し息が荒れている。間髪入れずに
    「現場に着く前には呼吸を整えてから。それ以前に体力を使う無駄な移動をしないことね」
    と指摘する。すると彼は「八代がスゲーだけだって…他の人間に出来るわけねえだろ…」とげんなりする。

    「とりあえず「コレ」は片付けておくから、お前は先に帰ってろよ。俺だけ何もしないで帰るってのもヤだからさ」
    私の足元に転んでいる、さっきまで息をしていた人間だったモノを指差してから、「もう夜も遅いし」
    と付け加える。

    「分かった。早めに終わらせてね、でないと__」
    「わぁってるって!人に見つかったら明日の朝刊に載っちまう、だろ?」
    その言葉だけ確認し、クルリと背を向け歩き出す。
    彼は一言、「また明日な」と声をかけた。私は歩みを止めなかった。
    彼の思いが路地裏にただ響いて、消えた。

    __これは、「仕事」なんだ。

    ◆◆

    翌日。
    綺麗な正装に着替えた後に適度な睡眠を取った私は、髪を整え、朝の挨拶をしに広い廊下を歩いていた。
    「おはよう八代。ふあぁ…」
    ガチャリ、と扉を開く音と共に明らかに睡眠時間が足りていないだろうふわふわした声が私の耳に入る。

    八代りつな、これが私に付けられた名前。
    訳あって名家のご令嬢の護衛をする仕事をしている。ボディーガードと言うやつだ。
    昨日のはその延長、上からの命令で暗殺の
    依頼だった。
    私が殺した人間がどんな人間だったのか、なぜ殺されなければならなかったのか、そもそも人間だったのかすら分からない。
    そんなことをいちいち考えていてはキリがないし、何より、興味が無い。

    私が挨拶を返すつもりが無いと分かると、彼は私の隣に並ぶ。そしてぼそっと呟いた。
    「昨日の奴、どんな人間だったんだろうな」
    「別に知ることでもないでしょ」
    「いや、そうなんだけどさ。この「仕事」始めてしばらく経つじゃん?」
    そう言って、少し俯く。どうやら少し思うところがあるらしい。

    「ちょっと親父に相談してくるわ。俺、考えるより前に動くタイプだからさ」
    そう言って私の顔を覗き込む。
    「…好きにすれば」
    「おし、好きにするぜ!ういいるかな、久しぶりに顔見たいなぁ」
    廊下を小走りする彼の背中を見ながら、その最後の言葉に少し疑問が浮かぶ。
    __久しぶりに__?

    「なんでだよ親父!」
    「ダメなものはダメだ」
    「せめてういには会わせろよ!」
    「お前だからこそ、ダメだと言っているんだ」
    「だからなんなんだよ、俺だから何だって言うんだよ!」
    少ししてから彼の怒鳴り声が聞こえてきた。どうやら「相談」は失敗したようだ。大広間のドアの前でオロオロしているメイド達をよそに、ガチャリとドアを開ける。
    「おはようございます、叔父様」
    「りつなか。おはよう、昨日の活躍は聞いてるよ。ご苦労さま」
    「おい!話を聞けよ!親父!」
    「とりあえず落ち着いて風間くん。朝から騒がしい」

    親父親父と叫ぶ彼は、風間隼斗。風間グループの代表、私が「叔父様」と呼ぶ風間大吾の息子でいわゆる御曹司だ。
    昨日は彼と一緒に任務を遂行する予定だったのだが、如何せん彼は私よりずっと鈍臭い。風間くん曰く「八代がはやすぎる」らしいが、基礎的身体能力は彼の方がずっと高い__彼自身はまだ自覚すらしてないけれど。

    「お兄ちゃん!会いに来てくれたのね!」

    そんな彼には妹がいる。
    風間うい。私の主目的、つまりボディーガードの対象である。
    「風間家の歌姫」と言えば伝わるだろうか。そう、弱冠14にしてかつて一世を風靡させた天才歌手。「聴いたヒトの心を必ず動かす」というキャッチコピー通り彼女の歌は特別で、無機物ですら文字通り動かしてしまう。
    使いようによれば__人を傷つける事だって、容易だ。
    綺麗な花には毒があるという言葉があるが、彼女の「それ」こそ当てはまるのではないかと私は思っている。勿論そう考えたのは私だけではなく、彼女を悪用しようと企む輩も存在する。
    そいつらから彼女を傷一つなく護り抜くことが、私に課された使命だ。

    と言っても、今の彼女には一曲歌うことすら難しいだろう。声帯の不調であまり声を出すことが出来ないせいで、現在は活動休止中である。ただそこは名家のご令嬢、歌を歌えなくとも常に笑顔を忘れない。お陰で今の風間家に必要不可欠な存在となっている。

    「うい!随分久しぶりな気がする、おはよう!」
    「おはようございます、うい様」
    風間くんに続く形で叔父様の隣に立つうい様に挨拶をする。
    「おはよう!お兄ちゃん、りっちゃん」
    太陽のような笑顔が咲いた。

    ◆◆

    うい様は私のことを親しみを込めて「りっちゃん」と呼んで下さる。逆に「様はつけないで」とうい様に言われたが、出来る訳がない。何度も何度もそのようなやり取りをした結果、向こうが折れる形となり、今に至る。

    今日はうい様のお出かけの日。朝ごはんを食べてから、私は自室で出かける準備をしていた。
    ふとドレッサーの鏡を覗く。水色の髪と、同じく水色の瞳。しばらく鏡の向こうの自分と見つめ合う。
    コンコン、と控えめなノック。さよなら、鏡の向こうの私。
    傍らに置いてある白の手袋を手にはめ、必要最低限の物を持ちドアを開ける。
    「ごめんねりっちゃん、待たせちゃった?」
    「今しがた準備が終わったところです、それでは行きましょうか」

    うい様のご意向で車は出さないようにしている。曰く「目立つから」らしい。確かに風間家の車は全て、真っ黒か真っ白の高級車だらけだ。
    「あ、お兄ちゃん!」
    門に近づくと見知った姿が目にとまった。風間くんだ。
    「うい!やっと来やがったかぁ〜、遅いぞ〜?」
    「あなたも何か用が?」
    風間くんは私の問いかけにちっちっち、と指を振って否定する。
    「実は!今日はういの護衛に回ることになったんだよこれが!八代ともいられるしラッキーだぜ…!」
    護衛と言っても近くのショッピングモールに洋服を買いに行くだけなのだが。しかし。
    「どうしてわざわざ護衛を?あなた仮にも御曹司__」
    そこまで言いかけて、風間くんの顔が少し曇っていることに気がつく。
    「…まぁいいわ、あまり目立たないでね」
    私には関係ないもの。

    ◆◆

    左からうい様、私。そして後ろに風間くん。
    うい様と風間くんは他愛もない会話をしながら、私は周囲を警戒しながら。三人で固まって歩いていた。
    「にしても本当に久しぶりだな〜、ういと外出できるなんて」
    「護衛って言ってなかった?お兄ちゃん」
    「ホンネとタテマエってやつだよ、覚えとけ。おっ、このゲームリメイクされたんだ」
    「風間くん」
    風間くんは良くも悪くも興味のあるものに吸い寄せられるタイプだ。
    「これじゃあ護衛じゃなくてただのウィンドウショッピングね」
    「いいじゃん、三人でおでかけなんて初めてだから私ワクワクしてるよ?」
    あっ、あそこのお店!とうい様が指差した方を向くと、今回の目的地である洋服屋が見えた。
    「見た感じカジュアルめな洋服屋だけど…何を買うんだよ」
    「服だよ服!私の持ってる服、派手なものばっかりで…」
    うい様は少し申し訳なさそうに俯きながら、「普通の人みたいなコーディネートお願いするつもりなんだ」と視線を周りに巡らせた。
    吊られて見ると、なるほどそういう。これはお嬢様なりの苦悩ってやつなのだろうか。

    ここに住まわせてもらってから数ヶ月、確かにうい様はパーティーやらなんやらで目立つ服を着ることが多い。叔父様も目立ちたがり屋な性格だからか、私服も普通より少し派手めなものをうい様に買ってあげている印象があった。
    …そういえば風間くんはこういう催しに参加してる印象が全くない。
    「それでは私はここで待ってますので、2人はお買い物を」
    「ダメダメ!りっちゃんも一緒に!」
    店前でうい様の買い物を待とうとすると、うい様に手を引っ張られ、そのまま耳打ちをされる。
    「お兄ちゃん、服選びのセンス無いんだよね…」
    「そうなんですか」
    「そうなんですかって、あの服見てよ!あのオーバーオール!ダサくない?!」
    「あぁ、あれ…」
    「2人とも何コソコソ話してんだよ」
    「ひみつ〜、さ!入ろ入ろ」
    「あ、ちょっとうい様」
    うい様はニッと笑って私の手を掴んだまま、店内に入った。

    ◆◆

    「いやぁ〜、りっちゃんに付き添いしてもらって良かった!お兄ちゃんが選ぶもの全部噛み合わないんだもの」
    「俺アレいいと思ったんだけどなぁ…ダメかぁ」
    「ダメでしょ、ストライプにボーダー組み合わせちゃ」
    「うい様、他に寄りたい所は?」
    「うーん、特にないかなぁ。強いて言えば、もうちょっと三人で居たいかなって」
    「お、良いこと言う〜!だってよ八代」
    「…私は帰った方がいいと思う。叔父様も心配されるだろう…し…」

    __視線。強烈な視線を感じた。悪意のこもった、最低な視線。すぐにうい様の身体を自分の傍に寄せる。
    「わ!急にどうしたのりっちゃん?!」
    どこだ。どこからだ。視力を「調整」しながら視線の主を探す。
    私の異様な気配を察知したのか、風間くんも着ていた上着をうい様に頭から被せる。
    「お兄ちゃんまで!」
    「うい、静かに…」

    「うい様を人目につかないところへ」
    「分かってる。うい、行くぞ」
    風間くんが店と店の入り組んだ場所へ入ったのを見届けてから、ショッピングモールの屋上を目指し地面を蹴った。
    ここにいる人達に被害が出ないよう、なるべく高く…高く。

    __見つけた。

    「向かいのビル…屋内か。ライフル…」
    首元のボタンを緩め、埋め込まれたチップを触る。瞬きの間にそれは大弓に変わって私の手にすぐに馴染んだ。
    屋上に着地した私はすぐに弓を構える。矢?そんなの、無限に「作れる」。
    屋上はかなりの強風で、普通の人間なら少しよろける程だ。インカム越しに彼の声を仰ぐ。

    「聞こえる?風間くん」
    「…あぁ、そっちどうだ?」
    「向かいのビルに一人ライフル持ちがいる、他にも仲間がいるかもしれない。護身用のナイフ持ってるよね?」
    「たりめーだろ、俺は護衛の為にここに居るんだ」
    「通報は?」
    「した。ちゃんと風間の名前も出した」
    「了解」
    通信を切断し、改めて向かいのビルを見る。
    __風間の名前を出した。
    それは「そういう合図」だ。弓を引き絞る手に、腕に力が入る。

    ライフルの銃口は確実にこちらに向いていた。あと数秒後には私の眉間目掛けてトリガーを引かれるだろう。
    でも。

    …知ってる?
    「光って、ライフルの弾なんかよりも、ずっとずっと「速い」の」

    「光の矢」は吹き荒れる風を無視して一直線に飛んでいく。狙いは一点、敵の肩。
    同時にライフルの弾も相殺できれば良かったけれど、こちらの狙いがほんのちょっとズレていた為、弾が伸ばしていた左腕を掠めていった。
    「ッ、でも…」
    視力を「調整」し、向かいのビルを見る。

    私が放った矢は無事に相手の肩ギリギリのところで貫通し、身体は壁に磔になっていた。
    やっぱり風が強すぎると初動がブレる。これからの課題だな。ふぅ、とひと息ついて左腕を確認する。どうやら本当に掠っただけのようで、火傷だけで済んでいる。
    「悪いけど、こっちはこんなところで血を流す訳にはいかないんだよね」
    弓のチップマークを押し、小さくなったそれを首元に戻してからインカムを起動する。

    「終わった、うい様は無事?」
    「おぅ、こっちも問題なしだ。怪我は?」
    「してない」
    「じゃあしてるな、後で見せろ」
    「…軽く火傷しただけ」
    「素直でよろしい!車を呼んだからすぐ帰れるぜ」
    「分かった、合流する」

    視力を戻し、屋上から一気に飛び降りながら二人の無事を確認する。人通りが少ない時間帯を選んで本当に良かった。

    あとの始末は警察や風間グループに任せることになっている。風間家にちょっかいをかけた人間がどういう末路を辿るのかは誰も知らないし、知ろうともしない。何より興味がない。

    合流してすぐうい様が私に駆け寄って来た。
    「りっちゃん!怪我したって聞いたけど、大丈夫!?」
    「大丈夫です、ただのかすり傷ですよ。うい様こそ、どこかお怪我は?」
    「俺を見くびってもらっちゃ困るぜおねーさん。無傷だ、俺もういも」
    「そっか、良かった」
    後から聞いた話だと、スナイパーの他に数人ナイフを持った人物が二人に迫ってきたらしい。
    少し気になった点は、その全員が少しオドオドしていたらしいこと。つまり初犯の可能性が高い。
    逆にスナイパーの方は、人を撃つことに少しも躊躇いを感じられなかった。手練れということだ。
    ここから導き出される答えは、「裏で今回の襲撃を手引きした者がいて、今回の指揮はスナイパーがとっていた」ということ。
    それが何者なのか、今はまだ分からないけれど。

    私は彼女を__うい様を護ることが出来れば、それでいい。
    車の中で簡易的な処置を施されながら私はそんなことを考えていたのだった。
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