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    kurutta_ore

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    kurutta_ore

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    創作小説④

    りつなのちから「なんだよ八代、動き足りないのか…よ…」
    珍しく騒がしいと思い隣の部屋を訪れた俺を迎え入れたのは、
    「…八代っ!?」
    ガラスが散乱した床に横たわる部屋の主だった。
    破片で足が切れるのも構わず彼女の元に辿り着き、抱きかかえる。

    「おい、しっかりしろ!八代!」
    少し揺さぶってみるが、起きる気配は無い。
    落ち着け。こういう時こそ冷静に、状況をしっかり把握するんだ。深呼吸をして…まずは天井を見上げる。
    このガラスの破片は…恐らく照明のものだろう。頭上には丸裸になった電球が並んでいる。
    次に横をみると、割れた鏡とこちらもまた割れた照明が目に入った。
    「…「力」の暴走…?でもそんな素振り少しも…とりあえず誰か呼ばねぇと」

    人を呼ぼうか思案していた所、
    「ん…」
    「おい、八代」
    彼女が目覚めたらしい。
    「風間くん…なんで……。私、どう、なって」
    周りのガラスを出来るだけ端に避けて空いた場所に八代を移動させる。
    「お前の部屋が騒がしかったから見に来たんだ。待ってろ、今親父呼んでくるから」
    「ま、って」
    一旦親父を呼んでこようとこの場から去ろうとした時、
    「い、かない…で」
    八代に呼び止められた。
    ズボンの裾を掴む彼女の手はびっくりするほどか弱くて、今にも力尽きて床に落ちてしまいそうで。
    数秒の間に考えを巡らせる。そして__。

    力を失い、落下する彼女の手を俺はしっかり掴み、握った。
    「大丈夫、俺はここにいるよ」
    俺がそう告げると、ビー玉のように透き通った水色の瞳が、安心したかのように細められた。

    ◆◆

    スマホを携帯していて本当に良かった。あの後空いた手で親父に電話をし、すぐ医師を呼んで来てもらった。
    八代はあまり自分のことを語ろうとしない。というよりも、過去に何かあったのだろう__露骨に顔に出る。前から思ってはいたが、クールに見えて彼女は意外と表情豊かなのかもしれない。
    医師に自分の足の治療を施されながら、「彼女の固有能力はなんだ」と聞かれたが、一番八代の近くにいるであろう俺とういでさえ「自分たちより光を操る力が強いくらい」としか答えることが出来なかった。

    固有能力と言われるこの力は、世界各地で伝染していくように現在進行形で広がっている。原因はネズミからの感染や遺伝など、その広がり方は様々だ。その中でも俺の知る限りでは俺とうい、八代の三人は光の力を扱うことができる。
    弱いものだと部屋の電気をスイッチなしで付けることが出来る。中程度だと自身を発光させて戦闘での目くらましに使える。
    強いものだと…洒落にならないだろう。なんたって、何よりも速い光の力だ。光の屈折を利用して「自身の姿を消す」ことだって出来るだろうし、光の熱を調節してレーザーにすることも可能だろう。
    つまるところ、使いようによっては簡単に人を殺めることが出来る能力なのだ。強い光の力を持った者は未だに発見されていない。されていたら即ニュース行き、瞬く間に世間に知られるだろうから。

    そういえば、八代。
    __「固有能力はあるのに力がない?」それはおかしいわね。あなたもそういう診断を受けたのなら、何かしら能力に沿った力が使えるはずだけれど。私の力?……そうね、せいぜい光の速度で射ることが出来る矢を作れる事かしら。

    いつだったか、そんな会話をしていた覚えがある。自身の掌を見つめながら話す彼女の声は感情があるように感じられないようなもので、瞳は少し陰りを帯びていた。
    それを思い出した瞬間、俺は確信した。確信、してしまったんだ。

    __彼女は、八代は、俺たちに何かを隠している。
    だって、あんな強力な矢を作る事が出来て他に何も出来ない訳がない。現に先程、彼女自身と部屋の照明がボロボロになっていたのだ。きっと何かあるに違いない。彼女が俺らに心を開いていない、なんなら鍵さえかけてしまっていることなんてハナから分かっている。でも、でも。

    「…八代は今、どこに?」

    俺は、考えるより前に動くタイプだから。

    ◆◆

    何も無い空間に、私が立っている。
    目の前にもう一人、私がよく知る人物が立っている。

    お姉ちゃんは、りつなのこと誇りに思ってるよ。たとえ見えなくなっても__。
    あぁ、お姉様…ごめんなさい。私、お姉様に誇ってもらえるような妹じゃない。

    私ね、ずっと考えてたの__。
    考えてた?何を…?

    どうすればこの殺意をあなたに向けないで済むのかって。どうすればあなたに対して純粋な心を持てるのかって。でも__。
    …待ってお姉様、何を言っているの?

    我慢、出来なかったんだ__。

    目の前の人物が、私の首を絞めてきた。息が出来ないはずなのに、苦しくない。でも、心が、何故かものすごく苦しい。
    どうして、あんなに優しかったお姉様が、どうして…。私はただ…。

    「お、ねえ…さま…」

    ◆◆

    どうにか絞り出した自分の声で目が覚めた。
    「…夢」
    夢で良かったのか、良くないのか…よく分からない。考えようとしても、霧がかかったようにぼんやりしていて上手く頭が回らない。
    「八代…?大丈夫か?」
    ベッドの上で横たわる私の、すぐ隣にいる存在に気づいて視界を移動させたのは、声をかけられて数秒経ってからだった。

    「風間くん……?」
    目眩がする。頭も痛い。あの後どうなった…?ろくに回らない頭で記憶を辿る。
    風間くんが私の部屋を訪ねてきたのは朧気に覚えている。そこから先は…ダメだ、思い出せない。
    私の疑問を察したのか、風間くんが説明してくれた。
    「お前がなんで倒れてるのか分からなかったから、とりあえず親父と医者呼んできた。ここは医務室で、今は俺しかいない。そんで…」
    間を置いてから少し気恥ずかしそうに、彼は続けた。
    「俺はここに居るから、どこにも行かないから。安心していい」
    デクレッシェンドしていく彼の声は、最後の方は小さすぎてほとんど聞き取れなかったが、
    「…ありがとう」
    彼がなぜこんなことを言ったのか皆目見当もつかないが、あの夢のせいで沈んでいた心が、少し軽くなった気がした。
    私がお礼を言うと、彼は少しはにかんだ。

    しばらくすると目眩は治まり、頭痛はするがまともに会話が出来るようになってきた。折角なので、目が覚めてからずっと気になっていた疑問を口にすることにする。
    「風間くん」
    「何?」
    「なんで私の手をずっと握ってるの?」
    「……あ」
    私の問いにしばらく固まっていた彼だったが、意味を理解したのか、バッと勢いよく私の手を離して両手を上げた。
    「あ、いや!そういうのじゃなくて!全然!」
    「…意味がわからない。さっき言ってたこともそうだけど、つまり私と離れたくないってこと?」
    「え」
    「え?」
    もう一つ頭の上に疑問符を乗っけた私を見て、風間くんははぁぁ、と大きくため息をつき、頭を抱え呟いた。
    「お前、覚えてないのかよ…」
    「…私なんか言った?」
    「イッテナイデス」

    そ、そんなことより!とあからさまに話題を変えて、今度は彼がずっと疑問に思っていたであろう事実を口にする。
    「八代、目覚めた時にお姉様って…」
    「……」
    「いやな、お前の昔話はあまり聞かないようにするって今日の朝から決めてたんだけど、どうしても気になっちまって…。いつ聞こうか迷ってたけどやっぱり気になるなら今聞いちゃえば良いのかなって。あ、でも」
    早口でまくし立てた後、嫌なら話さなくてもいいから、と風間くんが念押しする。
    ここで私が話さないと、聞いてしまった以上これから気にせずには居られないだろうに。

    「…優しいのね」
    「優しいっていうか…。俺、優しいのか?」
    「うん、あなたは優しいよ、風間くん。友達が言ってた、さぞモテるんだろうなって」
    「その友達にどんな話したんだよ…。てか、俺はモテたくて優しくしてる訳じゃないぞ、お前に…」
    「わかってる、わかってるよ。ちょっと意地悪言ってみただけ」

    いつの間に、こんな軽口を叩ける仲になったのだろう。一緒にうい様の護衛をしたから?なつめと話したから?彼と戦闘訓練をしたから?
    彼らと行動する度、言葉を交わす度、キツく縛りつけた自分の心が絆されていくのを感じていた。
    昔は護衛対象さえ無事であれば全てよし、他はどうなってもいいとさえ思っていた。
    もしかすると、護衛対象__うい様だけじゃない、なつめや風間グループ、そして目の前にいる風間くんのことをまとめて護衛対象として見ようとしているのかもしれない。

    __もう、ただの「仕事」じゃなくなっちゃったかな。

    「ふふ」
    「な、なんだよ突然。お前が笑うなんて、らしくない…」
    「そう。今はあなたの中の私は、らしくないの」

    「だから話すよ、私のお姉様のこと」
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