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    kurutta_ore

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    創作小説⑥

    譲れないもの「八代ってさ、「これだけは譲れない!」ってこととかあったりする?」

    訓練の休憩中、突然風間くんがおもむろにメモ帳を取り出し、まるでインタビューするかのように聞いてきた。
    「急にどうしたの」
    「これ、家の色んな人に聞いて回ってるんだよ。だからお前も答える義務がある、さぁ!」
    そう言って、彼はボールペンをマイク代わりにして私の近くに持ってきた。
    「そんな強引な…。じゃあ、うい様をお守りする決意の固さ」
    「うわぁ、バカ真面目」
    …でも書くんだ。

    身体を少し近づけてメモ帳を覗くと、叔父様からメイドの皆さんにまで聞いて回った結果がびっしり書かれている。
    風間くんってこういうところ割と几帳面なんだな、と少し彼に関心を寄せる。
    「そういう風間くんはどうなの?」
    「俺か?俺は…根性かな」
    「へぇ、意外と熱血漢」
    まあな、と軽く返事をしてメモ帳とボールペンをポケットに仕舞う風間くん。
    「俺の場合、お前に追いつこうと必死なんだよ。んで訓練とかで、もう限界〜って思っても八代を目標にしてるってことを考えると、不思議と頑張れちゃうんだよな」
    そう言ってニカっと笑う風間くん。後半言っている意味はイマイチ分からなかったが、とにかく向上心があるのはいい事だ。

    「ちなみに、うい様には聞いたの?」
    「そこなんだよ。これでういが最後になったんだけど、最近アイツには会えてなくてな〜。お前が聞いてきてくれたら手っ取り早…そうじゃん、その手があった!」
    いきなり大声を出した風間くんは、さっきポケットにしまったメモ帳とボールペンを再び取り出し、はい、と私に手渡してきた。
    「…まさか」
    「そのまさかで〜す。八代どうせ今日もこの訓練の後、ういに会うだろ?」
    なんで私のスケジュールを把握しているの…そろそろこの突っ込みも疲れてきたな。

    「あなたの代わりにうい様に聞いてこい、ってこと、よね」
    「おう、よろしくな」
    「…この後の訓練、本気でいこうかしら」
    「え」

    ◆◆

    「…という流れで」
    「今に至るって感じね、なるほど」
    その後の訓練で風間くんをギタギタにした後、私は言いつけを守るためにうい様のお部屋にお邪魔していた。

    それにしても、とうい様が続ける。
    「お兄ちゃんって、よっぽどりっちゃんのことが好きなのね」
    「…そこら辺掴みどころが無くて、正直困ってます」
    「そういう時は素直に受け取っておけばいいのよ。それで、「これだけは譲れないこと」だったっけ?お兄ちゃんからの質問は」
    「ええ、そのはずです」
    メモ帳をぴらりとめくると、一ページ目に大きく「みんなの譲れないもの」と書かれている。その下から、会う人会う人に聞いたのだろう、叔父様やメイド長をはじめとする風間家と風間家に仕える面々の名前、そしてそれぞれの「譲れないもの」が箇条書きになってズラリと書かれている。

    「へぇ、お兄ちゃんの癖に綺麗に書くじゃない」
    うい様が覗いているのに気が付き、見やすいようにメモを百八十度回転させる。
    「あ、パパの答え、「娘を素敵に着飾ること」だって」
    「叔父様らしい答えですね」
    「パーティーの時のドレス、大抵パパが選んでくれるから。ふふ、なんか嬉しいなぁ。あ、メイド長のカレンさんは、「空気中に埃を撒き上げない掃除をすること」、だって」
    「さすがカレンさん、いつもお部屋も空気もピカピカにして下さりますものね」

    ここでうい様のページをめくる手が止まる。
    「お、りっちゃんの項目がある!なになに…」
    「あ、あんまり見ないでください、恥ずかしい…」
    私の項目を黙読したうい様はふにゃりと笑って、目線はメモ帳に落としたまま、
    「いつもありがとね、りっちゃん」
    と告げた。

    「今ので思いついたかも、私の譲れないもの。言っていい?」
    「ぜひ」
    「私の譲れないものはね…」

    ◆◆

    「よっ、お疲れさん」
    うい様と別れた後、私は完成したメモ帳を渡しに風間くんの部屋の前に訪れていた。
    「うい様に聞く時に色々覗いちゃったけど、構わないよね」
    「お、見たか。親父の項目すげぇよな、生粋の親バカだぜこりゃ」
    風間くんは少し寂しそうな顔で呟いた。風間くんは表情が読みやすいとつくづく思う。

    「今度、風間くん本人のことも聞いてみよっか」
    「やめとけ、愚痴しか出てこねぇよ」
    そう言って彼はケラケラと笑った。

    「興味が湧いたから、私の友達にもメールで聞いてみたの。そしたら「コーヒーへのこだわり」だって」
    「あぁ、だからこの前お土産持って帰って来た時にあんなに種類が豊富だったんだな」
    ちなみに、彼女からも同じ質問が返ってきたので風間くんのと同じ受け答えをしたら、彼と全く同じ反応をされた。

    「そういや、ういは何て言ってたんだ?」
    来たか。
    「あぁ…そのことだけど…」
    つい視線が泳いでしまった。目ざとい風間くんがそれを見逃すはずもなく、視線を無理やり合わせられる。

    「まさか、聞けなかったとか?」
    「いや、聞くことには聞けたわ。ただその内容がね…」
    話すより見てもらった方が早いと思い、うい様の項目が書かれたページを風間くんに見せる。

    「これは…」
    緩んでいく頬を手で隠す風間くん。吊られて私もメモ帳から顔を逸らし、横髪を耳にかける。
    「よくもまぁ、恥ずかしげもなく言えたな…」
    「うい様には敵わない、わね」

    風間うい:譲れないもの 「風間隼斗と八代りつなの笑顔を間近で見る権限」。
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