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    kurutta_ore

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    創作小説②

    ブラックコーヒーって苦いよね「さぁさぁどうぞ!寛いでってねぇ」
    「お邪魔します」

    今日はあたしの大・大・大親友のりつなが家に遊びに来る日!最近めっきり会えてないから心配してたんだけど、どうやら体調は崩してないみたい、良かったぁ。

    「コーヒー淹れてくるね!ミルクとお砂糖は?」
    「ミルク、たくさん」
    「えへへ〜、了解!」
    昔からりつなはあたしと二人きりの時にだけコーヒーにミルクを入れる。本当は苦いの苦手なのに、他の人がいると必ずブラックにするんだよね。
    なんでだろう。お湯を注ぎながら考える。りつなには聞きたいことが沢山あるから、今日はそれだけで日が暮れてしまいそう。あぁ楽しみ!

    「はーい、ミルクたくさん入れてきたよ!どうぞ」
    「ありがとう、いただきます。それにしてもほんとにコーヒー好きよね、あなた」
    「あんたとお茶する時、あたしはいつもコーヒー頼むからね〜」
    「いつもブラックで」
    「そしてアイス!」
    示し合わせたような会話に、両者ふふっと笑ってしまう。

    「そういえば、「先生」がね」
    コーヒーを飲むりつなの身体がピクリと動いた。
    「…脳のこと?」
    「そうそう!経過観察してたんだけど、頭を打つ様なことに気をつけてさえいれば大丈夫、だって!」
    「それは、良かったわね」
    ふわりとりつなが笑う。
    あたしは生まれつき脳の病気を持っていた。このままだと人格を保てない、と大きな病院で言われた程だと言う。
    そこに「先生」が現れた。「先生」は何も言わずに脳の手術を終わらせると、一言だけ幼いあたしに言葉をかけた。
    __これから君は、幸せになれるよ。

    両親は仕事で海外に出張している。長い間一人暮らしをしているが、何も寂しくない。
    だって「先生」のあの言葉と、りつながいるんだもの。
    __これから君は、幸せになれるよ。あたしはその言葉をかけてくれた「先生」を信じていたい。そしてあたしにしてくれたように、今度はあたしがみんなの「先生」になりたい!

    「…で、勉強の方はどうなの?」
    「う…聞きますか、それ」
    「友達の近況は聞きたいもんよ」
    実は、医者になる為の勉強の成果はあまり芳しくない。完全に独学な上、誰にも頼れずに困り果てているのだ。
    「私は医学は専門外だから何も相談乗れなくてごめんね」
    「全然!そ、そんなことより」
    急いで話題を変える。

    「りつなの方こそ、どうなの?ボディーガードの仕事って聞いたけど」
    「うん、衣食住を提供してくれる代わりにお嬢様の護衛をね」
    「お嬢様!すごい、ホントにいるんだ!」
    「お屋敷、すごく広いよ」
    「行ってみたーーい!!あ、でも護衛ってことはりつな自身は大丈夫なの…?危険な目に遭ってない?」
    あたしのその言葉に、少し彼女が言い淀む。
    「あー…たまに怪我する時もあるけど、ピンピンしてるから大丈夫。それに」
    __私は強いから。

    あたしには分かる。りつなが自分を肯定するような言動を見せた時には、それは虚勢を張ってる証拠。本当は、怖いんだ。

    「無理だけはしないでね」
    これが、あたしに出来るせめてもの声掛けだった。

    コーヒーを一口飲むと、それは既にぬるくなっていた。

    ◆◆

    「え〜!?それ絶対恋だって!!アオハルってやつだよりつな!」
    「あ、アオ…?いや、でもそれ恋なんかじゃ…」
    「絶対そうだよ!相手なんて言ってたって?」
    「…「八代とも居られるしラッキーだぜ」って…」
    「そーれーはーねー、向こうがあんたのこと好きってことだね。これは確定事項ですわ。で!で!りつなはその彼のことどう思ってるの!?」
    「ど、どうって…」

    …いつの間にか尋問が始まっていた。風間家の事を話していく内(家の詳しい話はしっかり避けた)に話題は点々とし、風間くんの話になっていた。なつめ曰く、「彼が私のことを気にかけてくれているのは、私のことが好きだから」だそうで。
    「何も無いよ。ただのビジネスパートナーみたいなもの。この前だって一緒にお嬢様の護衛をしたし」
    「なんだぁ、ビジネスパートナーかぁ。でもあんたのこと大切に思ってるんだね、その人。そんであんたもその人のことを大切だと思ってる」
    「だからそういうんじゃ…」
    「あんたはさ」
    急に真面目なトーンで紫色の瞳が真っ直ぐ私の顔を射抜く。

    「あんまり他人に興味無い振りしてるけど、実は自分が思ってるより色んな人のことを大事に思ってること、多いんじゃない?」
    私はすぐ、その言葉に反論しようとした。でも、何故か口が動かない。喉から声が出ない。
    私の全身全霊をもって、私の全てをうい様に捧げるつもりなのだと言わなければならないのに。
    口を閉ざしてしまった私を見て、なつめは続ける。
    「だって興味無いって言ってるにしては色んな人の言動細かく覚えてるよね?あたしはあんたのそういうの、いい所だと思ってるし、大事にしていって欲しいって思ってるよ」
    「……私は…」
    「とにかくあたしが言いたいのは、この縁を大切にしていこうぜって話!せっかくいい人達に出会えたんだから、さ」

    ____。
    そして彼女は最後に一言付け加えた。親友の口から発されたその言葉を、私はきっと生涯忘れないだろうと、何故かそう思ったのだった。

    ◆◆

    「八代おかえり!寂しかったぜ〜…」
    「はいはい。あ、これお土産。コーヒーだけど、あなた飲むっけ」
    「う、コーヒー苦手なんだよなぁ…八代のダチには悪いけど」
    「じゃあ明日うい様と飲もうかしら」
    「俺にだってお前とお茶する時間くらい与えてくれても良くないか!?」

    なつめとの会話が落ち着いた頃には日は沈みかけ、門限ギリギリの時間で。次にまた会おうと約束をし、急いで風間家に戻ってきたのだった。
    そして門の前で待ち伏せ(?)をしていた風間くんに出くわした、という訳だ。
    「…風間くん、なんでここに居たの」
    「い、いやぁ。門限ギリギリになってもお前が帰ってこないから、その…」
    口を手で覆ってモゴモゴ喋っているせいで何を言っているのか聞き取れない。
    「とりあえず叔父様に帰ったって報告しなきゃだから、先に入ってるね」
    「あ、や、八代!」
    「…なに」
    こちらは急いでいるのだが。風間くんは口を覆っていた手を離さないまま、ただ瞳は私を真っ直ぐ見つめたまま言った。
    「無事でよかった、本当に」

    __あんたのこと大切に思ってるんだね、その人。
    違う、そんなんじゃない。もしそうだとしても、それは。

    ◆◆

    「何日ぶりかにまた三人で談笑出来るなんて…こりゃ明日は雪でも降るのかねぇ」
    「その言い方なんか古臭いよ、お兄ちゃん」
    「んなこと言うなよ…八代も嬉しいよな、な?」
    「…いつでも出来るんじゃない?」
    「かーっ、これだからお嬢様とお付きの者は…俺は毎日お前らに会える訳じゃないんだよ」

    ぐちぐち言いながら風間くんが席を立つ。
    「お前らコーヒーだったよな?淹れるよ」
    「あ、じゃありっちゃんのお友達から頂いたコーヒーがいい!」
    「決まりだな、ミルクと砂糖は」
    「私にはどっちもたくさん!確かりっちゃんはブラックだったよね」

    __少し考えるフリをしてから、口を開く。
    二人とも目を丸くして驚いているようだった。
    「珍しい。どういう風の吹き回しだよ」
    「りっちゃん、ブラックしか飲まないのかと思ってた」

    頭の中で親友の発した言葉を反芻していた。
    __たまにはそういう人達の前で、コーヒーにミルクをたくさん入れてみてもいいんじゃない?

    「たまには、ね」
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