マイド式ウルス型試作品γ-02「……オツキン?何をしてるんだ?」
長年過ごしてきた相棒である氷虎ですら困惑してしまうような約1680万色ゲーミングカラーがオツキンの机の上で主張激しく煌めいている
「副産物のゲーミングキウイだ」
「俺が聞きたいのは結果ではなく因果関係なのだが」
何がどうしてこうなった
オツキンの行動にこうして頭を抱えたのは何回目だろう
最も、逆も然りであることはここにハッキリと明記しなくても仲間内では知られている暗黙の了解であり、大概氷虎もブッ飛んだことをやらかすのである
「違うんだ、いや違くはないんだが」
怪しく輝くゲーミングキウイを手袋越しに持ち上げる
「果物が輝いているのはまだいい、たまにある。だからと言ってこんな輝き出すキウイは記憶が確かなら過去数回しかなかった筈だろう」
「色数なら過去最高レベルだぞ」
「聞きたいのはそこじゃない」
氷虎の頭の本体に目から飲むタイプの魔剤のようなレインボーが乱反射しサンキャッチャーの役割を果たせそうな程にキウイの光を吸い込んでいる
これが太陽の光だったら溶け出してしまっているかもしれないが純植物製、その心配は無用である
「いやJackが先週マスタべ旅館近くの紅葉の木を全焼させたらしくてさ?」
「もうちょっと細かく説明をくれ」
細かな氷の輝きと反比例するかのような雑な説明はいつものことだが今回も例に漏れず適当であった
「俺もざっくりとしか概要を聞いていないからアレなんだが、あづキンとJackとフク郎でマスタベ旅館へ掃除の手伝いに行っていたらしいんだ。そしたら旅館の女将さんからサツマイモの差し入れがあったらしいんだよ」
「まぁそこまでは分かる」
「んで、あづキンが溜まった落ち葉を捨てる袋を貰いに行っている間に芋を焼いておいて驚かせようってJackが言い出したらしい」
「あづキンも最近頑張っていたし休憩を挟ませようとしていたんだろうな……」
最近とみにくるくると働いていた赤い姿を思い出しながらも、ふざけて茶々を入れつつも気遣おうとする薄水色の姿が容易に想像できる
「戻ってくるまでそう時間がないから早めに焼き上げようとフク郎に頼んで、火力マシマシで取り合えず一個焼こうとしたんだってさ。そのタイミングでJackが寒さの余りくしゃみしてその余波でフク郎が火力調整ミスって紅葉に少し燃え移ってしまったらしい」
手袋に鮮やかな虹色が反射し、そのまま目に吸い込まれていった
「その程度だと全焼だなんて大惨事にならないだろ」
「それで慌てたJackが手持ちにあったオボレ珠を投げつけて消火しようとしたら間違えてシャクネツ珠を小火の中心にクリーンヒットさせたんだってさ」
「ストライクしてるじゃないか……」
思わず両手で顔を覆う
自分たち沼は比較的騒動の中心にいるとの自覚はあるが、それにしたってトラブルが多すぎやしないか?
なんせ自由気ままで奔放な沼という種族の大半がトラブルメーカーである
こればかりはどうにもならない
「幸いにも旅館に被害は無くて紅葉だけ綺麗に燃えたらしい」
「一昨日に所用でマスタベ旅館に寄った時は紅葉があったと俺は記憶しているんだが」
「あーそれな、フク郎が自分にも責任の一端はあるからって幻術で誤魔化してくれているらしい」
いっそ暴力的なまでの美しい紅を思い出し、それを再現しきっているフク郎の手腕にも感心する
仲間内では随一の魔力量と精密な魔力操作を誇るであろうフク郎なら確かに暫くは保つだろうが、それも長くは続かない
だからこそ、今こうして急速に植物の成長を促進させる薬を錬成しているのであろう
「にしたってなんで光り輝いているんだ」
「いやこれでもマシになったんだぞ?最初の方はゴールデンキウイになったし食べたら頭からキウイの木が生えて今度は中身が土留め色した美味しいキウイが実りだした」
「食べるなそんなもの」
その好奇心こそがオツキンをオツキン足らしめているのは分かる、分かるんだがもう少し危機管理というものをしっかりしてほしいを前から散々言い聞かせていた筈なんだが
「まぁ紅葉育てる分には食べないし十分なんだがちょっと大きさが足りなくてな」
「紅葉天ぷらし出す奴がいたらどうするんだ」
「する奴は大体食欲旺盛だから困らない」
そういう問題ではないだろう
「この試作品の効果としては育てたい植物の根に差して数分待てば立派に育つという扱くシンプルなものなんだが副作用で効果時間と色数ランダムで光り輝くんだ」
「光らせないようにしたらどうなるんだ?」
「ザウルスになる」
「ザウルスになる?!?!」
「そもそも調合は失敗したら一定確率でザウルスが発生するんだが、これを【ウルスの錬成理論】というのはお前なら知ってるだろ?」
「フワンソワの基礎錬成Ⅰでやったな」
頭の片隅から記憶を引っ張り出して理論を頭の中に並べ立てる
「それを逆に利用してザウルス族特有の恰幅のいい体格に見られる共通項から成長を促進させる物質を探してそれを抽出して使ってみた」
「でもザウルスが出てくるのって確率だろ?確定では無かった筈だろう」
「多分ザウルスエキス使ったからだ」
「成程な……」
ザウルス族の最上位、この世界の理から一番遠い存在であるキングオブザ・ウルス
そんな規格外なエネミーの体液を使えばそれは訳の分からない反応が一つや二つのみならず十や二十は出てきても可笑しくは無いな、うん
無理やり自分を納得させて取り合えずその場を収める
「一応今から実食するんだが食うか?」
「謹んで断らせてもらう」
流石にこれの実食は勘弁願いたい
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後聞いた話だとあのゲーミングキウイを生み出した試作品を微調整したもので無事紅葉は見事に返り咲き、今日もその豊かな紅を風にはらりと舞わせ宿へやってくる客を歓迎しているらしい
あづキンにもバレず、どうにかうまくやったようだ
しかし、懸念すべき事項
というよりかは、懸念せざるを得ない喫緊の課題が一つ
ちら、と視界の片隅で派手な主張を続けて視覚へダメージを根強く与えて来るオツキンを見遣る
あれから、紅葉は無事に何事もなく育ったが実験の産物であるゲーミングキウイを食べたオツキンの発光が止まなくなってしまったのである
幸いと言っていいかは分からないが、実験に使ったキウイの木に実った他のキウイの発光は止み、食べても美味しいだけの只のキウイであるのだがオツキンだけがなぜか一週間も発光している
「作った俺も驚いているんだがまだ光るのなこれ」
「そろそろ消化されて成分が体外に排出されても良い頃だろう……」
「ザウルスだからそのへんしつこいんだろ」
当分、俺の氷もカラフルになりそうだ