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    ぱるこ

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    ぱるこ

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    お題『夜明け』アカデミー時代のかなり強めの幻覚

     アカデミーの頃の話。【HELIOS】で行われたルーキーズキャンプのように、クラスメイト同士の親睦を深める2泊3日の校外学習があった。
     スマートフォンや通信機器なんかはあらかじめ没収。その当時流行っていたゲーム機だって例外ではなく、中にはこっそり持ち込んで夜中に抜け出しては、ひとつの部屋に集まって遊ぶような派手な子たちもいたけれど、臆病で真面目な僕にはそんなことできなかった。
     そもそも、アカデミーに友だちのいなかった僕は校外学習に乗り気ではなかったし、あぁどうして強制参加なんだろう、早く家に帰ってゲームがしたい、バディに会いたい、ゲームがしたい、バディに、ゲーム…… なんてことばかり考えていた。



    ***



    「…………一睡もできなかった…………」

     常に夜更かし気味の生活リズムで生きる僕に、完全消灯9時はあまりに酷だった。そうだ今日はブルーライトも浴びていない、目を瞑っていればいつの間にか寝落ちするはずだ…!なんて思っていたのに、どうして隣の部屋がゲームで遊ぶ子たちの溜まり場に選ばれてしまったんだろう。

     いつの間にか隣の騒がしさは通り過ぎ、薄いカーテンが少しずつ部屋に光を通し始める。シーツにうっすら落ちたのは飛翔する鳥の影。あれはカモメか。そうして僕は行きのバスの中から見た綺麗な浜辺のことを思い出す。確か歩いて10分もかからない距離にあったはず。
     近付いてくる波の音を聞きながら、弱気な僕には高揚感と罪悪感のダブルパンチが襲い掛かる。結局抜け出すなんて僕も彼らと同罪なんじゃないか、でも夜中じゃなくてもうすぐ夜明けだし、それに誰にも迷惑はかけてないし、誰にも会わなければいいし……

    「…………あ、っ」
     
     パキッ、と足元から鋭い音。白い砂の上に転がっていた流木を踏んだのだ。

    「!!」

     あんなに心地よく鼓膜を揺らしてくれていた、さざ波の音がぶつりと途切れた。
     ひとり、砂浜に腰を下ろし、海を見つめていた彼と視線がぶつかったから。

    「あの、ご、ごめんなさ……い、邪魔、しちゃって、」
    「……テメェ、何の用だよ」

     知らない男の子、だけど、同じジャージを着ているから僕が知らなかっただけで同級生だろう。両膝を立てて座り込んだまま顔だけをこちらに向け、皺の寄せられた眉頭とすぐ下、燃えるような濃いオレンジの瞳には、一切の光が宿っていなかった。

    「ひ……っ、僕、あの」
    「ンだよ、はっきり喋れ… つーか、俺がここにいたの、誰にも言うんじゃねぇぞ」

     付け根からもげてしまうんじゃないか、というくらい首を繰り返し縦に振る。このことを言いふらす相手なんていないし、僕だって部屋を抜け出したことが先生にバレたらきっと怒られる。この状況は彼だって同じだ。

    「……で、なんだよ。なんでここにいんだよ」

     くすんだブルーグレーの短い髪の毛をガシガシと右手で掻く。そう、こんな色。ちょうど今みたい、夜と朝の狭間で揺れ動く空と同じ色をしている。さっきの圧迫感とは打って変わって、このまま空に馴染んで、溶けて、消えてしまうような儚さ。

    「…え、と、たまたま…… 目が、覚めて、きれいな海だな……って」

     彼は何も答えず、また海を見つめ直した。
     ──部屋に戻ろう。邪魔してしまってごめんなさい、小さくつぶやいて、妨げにならないよう彼の視界の端で静かに頭を下げた。

    「……そういうことなら、もう少しここにいろ」
    「えっ」
    「いいもん見せてやる」



    ***



     だって、何か共通の話題があるわけじゃない。かと言ってどうでもいい世間話をしていたわけでもなかった。手触りのいいサラサラとした砂の上、隣に座らされて、唯一彼からなされた質問は、

    「テメェ、どこに住んでんだよ」
    「え…と、僕は、グリーンイースト……」
    「へぇ、イーストか。まぁ、俺もあの雰囲気は嫌いじゃねぇ」

     そのあとで「街全体が緩い雰囲気なのはどうにかならねぇのかよ、とは思うけどな」とキッパリ言い放つ。やっとまともな会話ができたと思えば、下手くそな苦笑い。僕はそんなところも魅力だと思うけど……
     でも僕はとにかく、生まれ育った街のことを否定されなかったことが嬉しかった。影が薄くて、引っ込み思案で、誰にも見向きもされてこなかった僕を知ろうとしてくれたことが心の底から嬉しかった。

    「! そ、そうなんだ……っ、僕、ヒーローになれたら、配属はグリーンイーストがいいな、って…… 実際素敵な街だし、バディにもすぐに会いに行けるし、あ… その、バディっていうのは、僕の飼ってる犬のことで」

     今思えば、アカデミーに入学してからこんな風に自分のことを他人に話したのは初めてだった。舞い上がってしまってまったく、僕らしくない、つい、ペラペラと話しすぎてしまったんだと思う。

    「そんな理由かよ」

     たどたどしく喋る僕の声を、彼は鋭い一言で遮った。一瞬で胸がぎゅっと押しつぶされる感覚。
     あ、はは… せっかく話ができたのにな。きっと自分勝手でくだらない、ってバカにされる。もちろん僕があの街が好きな理由も、ヒーローになりたい理由も、それだけじゃないけど──……

    「でも、別にいいんじゃねぇの」

     彼がそう口にした瞬間、僕たちに向かって一直線に光がさした。
     思わず先に感嘆の声を漏らしたのは僕。旧約聖書でモーセが海を割ったように、朝日が果てしなく広い海の上をあっという間に渡って、お互いの顔を照らす。

    「どこの配属がいいかってのも、ヒーローになりてぇ理由がどんなものだって、それが死ぬ気で頑張れる原動力になるんならよ」

     そうして、光の足りなかった彼の瞳にはじめて光が宿った。

    「だから、簡単に諦めんじゃねぇぞ」

     これは彼と僕の夜明けのはじまり。
     話の続きは何年か経った後のグリーンイーストでしよう。





    2021.08.28
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