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    affett0_MF

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    ぐだマンワンドロワンライ
    お題「天使の囁き/ダイヤモンドダスト」

    ##ワンライ

    はぁ、と吐き出した息が白く凍っていく。黒い癖毛を揺らしながら雪を踏みしめ歩く少年が鼻先を赤く染めながらもう一度大きく息を吐いた。はぁ。唇から放たれた熱が白く煙り、大気へと散らばっていく。その様子を数歩離れたところから眺めていた思慮深げな曇り空色の瞳をした青年が、口元に手をやり大きく息を吸い込んだかと思うと、
    「なぁマスター、あんまり深追いすると危ねぇっすよ」
    と声を上げた。
     マスターと呼ばれた癖毛の少年は素直にくるりと振り返ると、「そうだね」と笑みと共に返し、ブーツの足首を雪に埋めながら青年の元へと帰ってきた。
     ここは真冬の北欧。生命が眠る森。少年たちは微小な特異点を観測し、それを消滅させるべくやってきたのであった。
    「サーヴァントも息、白くなるんだね」
     曇空色の瞳の青年の元へと戻った少年が鼻の頭を赤くしたまま、悪戯っぽく微笑んだ。そこではたと気が付いたように自分の口元に手をやった青年が、「確かに」と短く呟く。エーテルによって編み上げられた仮の肉体であるその身について、青年は深く考えたことはなかった。剣――というよりも木刀だが――を握り、盾を持ち、己の主人であるマスターのために戦えるのであればその実体がどうであれ構わないというのが青年の心構えであるため、己の呼気がどうだとかそういうことに意識を向けたことがないのである。なので少年に指摘されて初めてそのことに気が付き、驚きの色を見せている。
    「たぶん意識すれば息しなくても平気だし、息が白くならないように体温を抑えることも出来ると思うんすけどね。やっぱサーヴァントとはいえ生身の人間のつもりで動いてるってことなのかな」
     顎に手をやりそう呟く青年の横顔を、一歩離れたところから少年はにこにこと笑みを浮かべていた。それもそもはずである。少年は青年の思慮深いところ、自らを陰キャと称す割には打てば響くところをとても気に入っているからである。自らが指摘した事案について真剣に考えてみせる青年の反応が好きで、だからこそこうしてついつい突いてみたくなるのであった。
    「それにしても、寒いすね」
     思想の海から足を上げた青年がしみじみというように呟いた。これに関してはほんの少し嘘が混じっている。サーヴァントである彼は寒さなどの気温の変化に疎い。「今この瞬間寒いのだ」と意識することがなければ寒さに気付くことすらない。ただし現状、目の前には銀色に輝く雪原が広がっており、目の前のマスターは鼻を赤くしているため、気温から目を逸らすことはほぼ不可避だ。逆に言えば「寒くない」と思っていればこの環境下でもほぼ平常時の動きが出来る。青年はマスターの身を案じることこそすれど、自分の身に降りかかる寒さに関してはほとんど意識を向けていないため、青年の言葉を事実を交えて正すのであれば「今俺はあまり寒いとは感じていないけれどマスターは寒そうっすね」となる。サーヴァントとはそういうものだ。
    「そうだね」
     しかし生身の肉体を持つマスターと呼ばれる少年は別だ。少年の肉体は環境に左右されるし、真冬の雪原へと放り込まれればもちろん寒い。少年が身に纏う礼装――魔術の編みこまれた特殊な衣服だ――は寒さや暑さへの耐性があるため見た目よりずっと防寒性が高いが、それでも寒いものは寒い。それに加えて人間は思い込みの強い生き物だというだけあり真っ白に広がる雪原を眺めていればそれだけで「寒い」と脳は錯覚する。その点ではサーヴァントも人間も同じものだと言えるだろう。
    「こんな雪、久しぶりに見たな」
     きらきらと輝く雪々を見つめ眩しそうに目を細める少年の横顔へ、これまた眩しいものでも見るように柔らかく細めた目を青年が少年へと向けていた。
    「……あっ」
     すると不意に、ふたりの足元をさらうようにひときわ強い風が吹いたかと思うと、ふたりの周囲にきらきらと輝く星々のようなものが現れた。夜空にこぼれた銀砂のようなそれは、ちかちかと瞬きながら風に誘われるように風下へと駆けていく。
    「……わぁ」
     感慨深いという言葉を込めたような吐息と共に少年が声を漏らす。雪原の星を目で追っていた青年も口元を緩めたかと思うと、つややかな黒髪を揺らし少年を振り返ったかと思うと、
    「綺麗だったすね」
    と笑って見せた。
    「今の、ダイヤモンドダストってやつだよね」
    「へぇ、そんな名前なんすね」
    「うん、勘違いでなければ」
     すん、と赤い鼻をすすり、少年が名残惜しそうに風の行く先へと一歩踏み出す。きしりと雪が軋む音がして、新たな足跡がひとつ刻まれる。
    「綺麗だったな……」
    「そっすね」
     辺りは雪原。肌を刺すどころか焼くほどに空気は冷え切っているはずなのに、共に美しい光景を目にしたことで、少年と青年の間には柔らかくあたたかな気配が満ちていた。まるでぬるま湯のような温かさに、少年は一歩踏み出した足もそのままに穏やかに呼吸を繰り返していた。心置けない仲の存在と過ごす時間というのは、何にも代えがたいほどに温かいものだということを青年は知っている。
    「……なぁ、マスター」
     ふと、少年の後頭部に声が掛けられ、その声に導かれるようにして少年がそちらへと振り返る。声の主である曇空の瞳の青年は、首筋に手をやりしばらくもごもごと口の中で何かを転がすようなしぐさをしていたが、心を決めたらしく薄い唇と開いたかと思うと、
    「さっきの……ダイヤモンドダスト? とかいうやつ」
    何だかわざとらしくも聞こえるような声色でそう紡いだ。
    「うん?」
     先を促すように相槌を打つ少年に、青年は再び唇を開く。
    「ちょっと似てた。……マスターの瞳に」
     気恥ずかしいのかそっぽを向いて、青年はなおも続ける。
    「きらきらしてて星みたいなとこが……アンタの目に似てた」
     ぽりぽりと音が聞こえそうな程に大げさに頬を掻く青年の横顔を啞然といった顔で見ていた少年だが、我に返ったかと思うと、こちらもまた大げさに思い切り吹き出して見せた。
    「マンドリカルド、顔真っ赤!」
    「う、うっせーっすよ! ああ、やっぱ言わなきゃよかった」
     足元に目をやりひとりごちる青年の様子がおかしいのか、涙をぬぐうようなしぐさをしながら少年がけらけらと軽やかに笑う。
    「嘘ウソ、嬉しいよ」
     星の瞳なんて恐れ多いけれど。我が心の友人である彼が自分の瞳をそのように褒め称えるのであれば、胸を張って応じなければ失礼だ。少年はそのように思い直すと、青年に向けて手を差し出した。
    「――帰ろうか、マンドリカルド。皆待ってるだろうし」
     マンドリカルドと呼ばれた曇空色の瞳の青年は、その瞳に星の瞳の輝きを写しながら手を取る。
     ふたり見上げた空には金銀の星の輝き。星の記憶。この地にも星が在ることを知るふたりは、仲間たちの待つ場所へと一歩、踏み出したのであった。
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