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    2_leaf_clover

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    2_leaf_clover

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    久しぶりにこの長さのを書いた……。
    お題メーカーの般若さにを書いたのに、お題全く関係なくなってしまって申し訳ない(元は『兵士と捕虜の両片思いからの告白』というお題でした)。
    ただバチ切れ大般若さんを書きたいだけになってしまったよ……。

    揺籠 明るい光が顔に掛かる。どうやら今日の天気は晴れている、らしい。身長よりだいぶ高い所に在る格子の嵌められた窓を見て思う。
     この座敷牢に入れられて何日が経っただろうか。最初のうちこそ律儀に日数を数えていたものの、数えるだけ気が滅入るとやめてしまった。今はただ、此処で静かに座っていることしか出来ない。
     ガチャリと南京錠が外される音がしてこの座敷牢が在る土蔵の扉がギィと開いた。
    「いい加減明け渡す気になったか?」
     逆光で顔がよく見えないが、声で分かる。コイツが私を此処に閉じ込めてる主犯だ。その背後には部下と思われる式神の類が二人いる。
    「何度訊かれても同じです。私は私の本丸を明け渡す気は無い」
     この主犯の男、名も知らないが、どうやらそこそこ高位の陰陽師の家系らしい。その名に箔を付けるために審神者として優秀な成績を残している私の本丸を明け渡せと詰め寄ってきた。嫌だと拒否をすると式神を弄して私を此処に閉じ込めては毎日本丸を明け渡すように要求してくる。
    「本丸とて主人が居なければ徐々に霊力も薄まる。キミの刀たちだってもう衰弱しているかもしれない。可哀想になぁ。今此処でキミが『明け渡す』とひと言告げれば本丸は無事元通りだというのに、それでもキミは意地を張るのか?」
    「私は貴様に本丸を明け渡しなどしない」
    「ふん、強情な女だ」
     陰陽師の男は鼻を鳴らすと、私をジロリと舐め回すように見てニヤリと口角を上げた。
    「……あぁ、そうか。簡単な事だったじゃあないか! キミと私とで稚児ややを作れば万事解決じゃないか。どうして気づかなかったんだろう!」
     さぁっと血の気が引いた。稚児を作る? それはこの男と契りを結べということ。こんな、乗っ取るためには手段を選ばないような、下衆な男と。
    「今夜、楽しみにしているよ」
     上機嫌に笑いながら男と式神たちは土蔵から出て行った。

    「まだ主人の居場所は掴めないのか!」
     本丸の一室を改造した機械だらけの部屋で業を煮やしたへし切長谷部が叫ぶ。その声に山姥切長義が顔を顰める。
    「今探している。静かにしてくれないか」
    「静かにしていろだと? 主が居なくなって何日が経ってると思っているんだ? もうひと月だぞ!」
    「五月蝿い! 気が散る!」
     長義はそう怒鳴ると長谷部の背中をぐいぐいと押して部屋から長谷部を追い出すとピシャリと襖を閉めた。
    「まぁ、長谷部くんの気持ちも分からないこともないけどね」
     一部始終を見ていた南海太郎朝尊が画面から目を離さずに笑う。同じように画面を見つめたまま一文字則宗が溜息を吐いた。
    「喚き散らしたところで状況は変わらん。何の術だか知らんが主の気配、霊力を全て消し去っているからな。こいつは手強いぞ」
     端末を見ていた長義の目が僅かに細められる。ほんの少しだけではあるが、端末は主の霊力を捉えていた。
    「……則宗、朝尊、これを」
    「主の霊力か?」
    「かなり微量ではあるけど、まず間違いないだろうね」
     朝尊の言葉に則宗の目付きが変わる。
    「すぐに全員を大広間に集めろ。主を迎えに行くぞ」

     よく晴れた夜だった。大般若長光は執務室の窓から外を眺めていた。主人あるじが姿を消してからのひと月、何を飲み食いしても何の味もしなかった。とはいえ、この付喪神の身体では容易に死ぬこともできず、ただただ惰性で毎日を生きているだけだった。
    「あんた……何処に行っちまったんだよ……」
     空に浮かぶ満月に向かって呟く。白く輝くこの月をあんたも見ていてくれたらいいんだがなぁ。
    「大般若くん、ちょっといいかな?」
     振り向くと燭台切光忠が立っていた。
    「何か用かい?」
    「最近、ちゃんと食事が出来てないみたいだから心配になってね」
    「あぁ……何を食べても味がしなくてなぁ……」
    「……そっか。心配だもんね、主のこと」
     ギュッと心臓が締め付けられる。心配なんてレベルじゃない。俺はあの子を守れなかったのが悔しくて悔しくて気が狂いそうなんだ、と喉元まで出掛かったのを必死で飲み込み、努めて平静を装って笑った。
    「そりゃあ、親父殿も一緒だろう?」
    「僕も主のことは心配だけど、大般若くんのとは違うよ。……だって主のこと、愛しているんでしょ?」
     瞳孔が開き、心臓が早鐘を打つ。刀と人間とでは身分違いも甚だしいとずっと蓋をしてきた感情をこんなに簡単にバラされてしまうとは。
    「……ははっ、流石だよ。親父殿に隠し事はできないねぇ」
    「祖として長船派のみんなの事はしっかり見てるつもりだからね」
     優しく微笑む燭台切の背後、開け放たれた執務室のドアをコンコンと小竜景光が叩いた。
    「お取込み中のところ悪いが、集合だ。則宗が呼んでる」
    「則宗が?」
     怪訝な顔をする俺の目を小竜は真っ直ぐ見据えた。
    「主が見つかったんだ」

     本丸の大広間では一文字則宗と山姥切長義が皆の前に地図を広げて状況説明をしていた。
    「で、結局主を捕らえてるのは誰なの? 時間遡行軍のヤツ?」
     加州清光が真っ先に口を開く。一秒でも早く主を取り返したい焦りを滲ませる加州に極めて冷静な則宗が答える。
    「いや、それはまだ分からん。首謀者を見つけたら生捕りにしろ。絶対に殺すなよ?」
    「小鳥は何処に囚われている?」
    「地図のこの辺り。多分相当厳重な結界が張られているだろうから、行けば分かると思うよ」
     山鳥毛の問いに長義が赤いマーカーで地図に丸を付ける。そこは人里から離れた小さな集落跡だった。
    「では誰に行ってもらうかだが……」
     則宗がぐるりと見回すとスッと手が挙がる。
    「俺に行かせてもらえないか?」
    「大般若長光……?」
     長義が不思議そうな声を漏らす。則宗は酷く冷たい目で大般若に告げた。
    「夜半から明け方の任務になるが?」
    「足手纏いにはならない。約束しよう」
    「……分かった。補佐に謙信景光と平野藤四郎、小夜左文字、物吉貞宗、堀川国広が入るように。では総員持ち場に付いてくれ」
     則宗の号令でそれぞれが配置場所へと散っていく。大般若はゆっくりと立ち上がり、長船部屋へと向かった。その赤い瞳に憤怒の焔を湛えて。

     窓から月明かりが差し込んでいる。
     今夜、此処にアイツが来る。私を抱く為に。昼間のうちに式神たちがいそいそと真新しいふかふかの布団や絹の夜具を置いて行った。
     ジワリと目の前の景色が滲む。どうしてこんなことになってしまったんだろう。早く帰りたい、早くみんなに会いたい。瞼を閉じると密かに慕っている彼の姿が浮かぶ。銀糸のような髪に柘榴色の透き通った瞳。どんなに私が塞ぎ込んでいても、そばに来て全てを包み込んで前を向かせてくれる、私の大事な刀。この想いは誰にも告げずに墓まで持って行くと決めていたけれど、でも、私がアイツに抱かれるしまう前にもう一度会いたかった。目尻からはらりと涙が一粒零れたとき、背後でガチャリと音がして土蔵の扉が開いた。
    「さあ、私の稚児を身籠もっておくれ」
     嬉々と笑うアイツを、私はただ睨むことしかできなかった。

     夜の帳が下りた山の中、一際大きな欅の上に刀剣男士たちが集まり、開けた盆地にある集落跡を見ていた。
    「集落跡とは言いますが、建物は随分綺麗に整えられていますね……」
     平野藤四郎が不思議そうに言うと小夜左文字が真っ直ぐ前を見たまま冷静に答える。
    「人が立ち入らないよう、普段は廃れて見える幻術を掛けているのかもしれないよ」
    「でも、これだけ きれいなのに だれも いないのは すこし ぶきみだ……」
     謙信景光が少しだけ身震いをすると隣に居る物吉貞宗が謙信の肩を優しく撫でた。
    「そうですね、人の気配がまるで感じられないのは少々気味が悪いですね」
     物吉が言うとおり、月明かりに照らされた集落には人影はおろか、家屋からの明かりすらも見られない。とても人が住んでいるようには見えなかった。
    「兎にも角にも中に入って主さんを見つけないと、ですよね。大般若さん」
     堀川国広が振り返って大般若長光の顔を見る。大般若は険しい顔で集落を見ていた。あの集落の何処かに主人あるじが居る。必ず見つけ出して、連れ帰る。そのためにまずすべき事は――。
    「ああ、長義は主人が居るのは『厳重な結界が掛けられている場所』だと言っていた。まずは結界を探そう」
     大般若はそう告げると欅から飛び降り、集落跡へと消えて行った。

     集落跡は5つほどの寝殿造や書院造が寄せ集まった奇妙な作りだった。ひとつずつ調べていくのでは夜がすっかり明けてしまう。
     どうしたものかと顔を上げると、ぼんやりとした奇妙な光が目に入った。その光の発生地点を辿っていくと集落の真ん中辺り、寝殿造の屋敷の奥にぼんやりとした光に包まれた土蔵が有った。
    「この光の壁のようなものは何でしょうか?」
    「もしかして……これが結界?」
     大般若がぼんやりとした光に触れると分厚い壁のような感覚が手袋越しに伝わってくる。次の瞬間、ずらりと人型の何かに取り囲まれた。時間遡行軍とはまた違う気配に神経を尖らせていれば、手に持った薙刀で切り掛かって来る。
    「手荒い歓迎付きと来れば、これが結界で間違い無さそうだ」
     薙ぎ払ってくる薙刀の切っ先を踏み付けて相手の動きを封じる。そのまま刀で謎の人型を斬り捨てると、まるで操り人形の糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
    「悪いな、こういうときは大人げなくてね」
     刀の露払いをしていると、斬り捨てた人型がガクガクと震えて再び立ち上がった。何事も無かったかのように薙刀を構え直す姿に背筋がぞくりとする。
    「大般若さん! 此処はボクたちで凌ぎますから早く結界の中に!」
    「こいつらを操ってる奴をどうにかしないと永遠に復活してきちゃいます!」
    「ああ……任せときなぁ!」
     物吉と堀川にその場を任せて、大般若は結界へと刀を勢いよく突き立てる。パキリ、と音を立てて結界にヒビが入り、一人がやっと通れる程の隙間が出来た。その隙間をするりと通って大般若が結界の中へと歩を進める。刀を鞘に収め、結界の奥にある土蔵を見据えた。
    「さぁて、大将首を挙げるとするかぁ……」
     
     土蔵の扉がズズッと音を立てて開く。これは人が開けるには重すぎる。こんな扉では逃げ出すことも出来なかっただろう。ここに閉じ込められているはずの彼女のことを思うと胸が締め付けられた。
    「主人、居るのか?」
     暗闇の中に声を掛けると暗闇の中から着流を着た男が現れた。
    「おお、あの娘の所の刀剣男士か。遅かったなぁ」
    「遅かった?」
     不審な顔をする大般若に向かって、男は召使いに言うように言った。
    「あの娘には少々無理をさせてしまってなぁ……。少し介抱してやってくれ」
     急いで辺りを見回す。心臓が握り潰されたような痛みが胸の辺りに走る。すぐそばの座敷牢の中に主人が裸のまま倒れていた。木製の格子を叩き切って彼女を抱き起こす。
    「主人……、主人!」
     抱き起こした彼女はぐったりとして瞳を閉じたままだった。よくよく見れば首は絞められたように鬱血し、身体中にアザや血の滲んだ傷跡がある。
    「ただ気を失っているだけだ、心配するな。では介抱を頼んだぞ。明日もまた、私とまぐわってもらわねばならんからな」
     こちらを一瞥した男が鼻で笑う。
    「まさか初めてだったとは思わなんだ。まぁ……多少苦痛もあっただろうが、良い囀りを聴かせてもらった」
    「言いたいことはそれだけか?」
     ヒュッと刀が空を斬る音がして格子がガラガラと音を立てて崩れ去る。その瓦礫を軽々と飛び越えて男の目の前に大般若が立つ。
    「我が主人に対する侮辱、しっかりと償って貰うぞ」
     男の肩を掴んで地面に押し倒す。慌てて体を起こそうとする男の肩をしっかりと踵で押さえ込んで立ち上がれないようにした。瞳孔の開ききった紅い瞳が男を射抜く。
    「則宗からはあんたを生きて連れて来いってことしか言われてないからなぁ……。腕の一本や二本、無くても問題は無いな」
     つぅっと鋒が男の腕をなぞる。恐怖からか男の体はブルブルと震えていたが、大般若は意に介すことなく刀で男の体をなぞり続けた。その鋒が股間でぴたりと止まる。
    「あぁ……それよりもまず、主人を穿ったその汚い魔羅を切り落とすのが先だったか。……大丈夫、痛みで気を失うだけだ。死にはしないさ」
     土蔵の中に男の悲鳴が響き渡った。

     数日後の本丸。審神者は自室に敷かれた布団の上に居た。私を監禁していた男は政府に引き渡されたと則宗が言っていた。アイツのことは思い出したくも無かったのでそれ以上は何も聞かなかった。
     本丸のみんなは何があったのか知っているようで私に直接聞いてくることもなく、いつもと同じように接してくれた。ただ、私がずっと会いたいと願っていた彼だけは私を避けるように過ごしているように見えた。きっと、汚れてしまった私を嫌ってしまったのだと、そう思っていた。
    「少し、いいかい?」
     障子の向こうから大般若の声がしたときは驚いた。布団をかぶって携帯端末を見ていたのに急いで身体を起こして、慌てて手櫛で髪を整えた。
    「……どうぞ」
     返事をするとスゥっと障子が開いて内番着姿の大般若長光が入ってきて、私の横に座った。
    「主人、大丈夫かい? 痛い所は無いかい?」
    「……うん、大丈夫。……大般若、有難う。私を見つけてくれて」
    「見つけたのは則宗や長義だ。礼なら彼等に言ってくれ」
    「……うん」
     気まずい沈黙が流れる。遠くで鳥の鳴く声が聞こえた。何を話すでもなく、互いに自分の手を見つめていた。
     その沈黙を破ったのは大般若だった。
    「主人」
    「なあに?」
    「すまなかった。もっと早く見つけ出せていれば、あんたに、あんな辛い思いはさせなかったのに」
     あの日の記憶がフラッシュバックする。身体が強張り冷や汗が顎を伝う。動きを止めた私に、大般若が小さな声で呟くように言った。
    「手を……握っても?」
    「……少し、だけなら」
     黒い革手袋からじんわりと伝わってくる男の人の体温。アイツとは違う、大きくて優しい手。怯えさせないようにそっと崩れる砂糖菓子に触れるように優しく私の手を包む。
    「大般若、私ね、アイツに抱かれる前にずっと貴方のことを考えてたの。貴方に、会いたいって」
     はらはらと涙が溢れる。一度堰を切ってしまった涙は止まることなく、私の顔を雨のように流れていく。
    「でも今はもうぐちゃぐちゃに汚れちゃって、貴方の隣に立てる女じゃなくなって……」
    「汚れてなんかいない!」
     私の言葉を遮るように大般若が大きな声を出した。びくりと跳ねた肩を見て、彼は申し訳なさそうな顔をして呟く。
    「……汚れてなんかいないさ。あんたは今でも美しいよ。俺が保証する」
     優しく包んだ手に少しだけ力が込められる。紅く透き通った柘榴石の瞳が、涙に濡れる私の顔を見つめた。
    「主人、好きだ。これから先、ずっとあんたを守っていきたい。俺を側に置いてくれないか?」
    「……有難う、大般若」
     微笑んだ大般若は私の手をぎゅっと強く握った。
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    ただバチ切れ大般若さんを書きたいだけになってしまったよ……。
    揺籠 明るい光が顔に掛かる。どうやら今日の天気は晴れている、らしい。身長よりだいぶ高い所に在る格子の嵌められた窓を見て思う。
     この座敷牢に入れられて何日が経っただろうか。最初のうちこそ律儀に日数を数えていたものの、数えるだけ気が滅入るとやめてしまった。今はただ、此処で静かに座っていることしか出来ない。
     ガチャリと南京錠が外される音がしてこの座敷牢が在る土蔵の扉がギィと開いた。
    「いい加減明け渡す気になったか?」
     逆光で顔がよく見えないが、声で分かる。コイツが私を此処に閉じ込めてる主犯だ。その背後には部下と思われる式神の類が二人いる。
    「何度訊かれても同じです。私は私の本丸を明け渡す気は無い」
     この主犯の男、名も知らないが、どうやらそこそこ高位の陰陽師の家系らしい。その名に箔を付けるために審神者として優秀な成績を残している私の本丸を明け渡せと詰め寄ってきた。嫌だと拒否をすると式神を弄して私を此処に閉じ込めては毎日本丸を明け渡すように要求してくる。
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