イチャついてろ!「我が名は吸血鬼『rndr末永くイチャついてろ!』」
「なんて?」
いつものシンヨコ。
本日も愉快な同胞が現れた。
うーん、私は意味完全に理解出来てるけど若造はきょとん顔だ。
にしても限定が過ぎやしないか?
「待て若造、君ちょっと面倒だから引っ込んでてくれたまえ」
「引っ込むのはおめぇの方だクソ砂野郎。おめぇが面倒臭そうな事更に引っ掻き回して大事にするの目に見えてんだよ。下がっとけ」
同胞と対峙する若造と並び同胞の能力に思考を巡らせる。
が、引く事のないアホ造が私の手を引き一歩下がらせた。
待て待て、多分だがこういうのが…
「ありがとうございます」
ほれ見た事か。
目の前の同胞は膝を折り手を合わせて私達を拝み出した。
若造は私の手を取ったまま何事だ訳が分からない、と言った表情で私と跪いた同胞を交互に見やる。
だから待てと言ったろ。
「下がって」
「ぅ…」
珍しく私が引かない事と、相手の能力の理解への乏しさに若造が渋々手を離した。
若造と同胞の中間地点まで足を進めてマントを翻す。
「本物を目の前にした気分はどうだ?」
「言葉にならない…これが『尊い』なのか…」
「君の能力を洗い浚い喋ってもらおう」
「強いて言うなれば『催眠』ですかね。普段思っていても言葉に出来ない事を表に出す的な能力なので至って害はないです。なんてったって私、今日の日のために成った吸血鬼ですから貴方達以外にこの催眠は効きません」
「何それ超ご都合吸血鬼。面白くなる事この上ないからちょっと後ろでわたわたしてる若造にかけてみて」
「承知。さっきから彼の裏の声聞こえてきてるんですが最高なのでぜひドラルクさんにも」
一歩横に逸れて同胞とロナルド君を向かい合わせる。
何が何だか分かっていないロナルド君に向けて同胞が手を翳すと光が一直線に放たれた。
されるがまま、なすがまま、その光を浴びたロナルド君は一度は自分に何が起こったのか確認するため、手を動かしてみたり服をめくってみたりしていたが、特に何もないようで、ぎろりとこちらを睨むように視線を寄越した。
やば、また殺される。
「ドラルク!」
(クソ砂!)
同胞よ、その力、無力なり。
砂にされる前に身構えようとしたが、何かおかしい。
ロナルド君、今私の事名前で呼ばなかった?
「俺から離れるな!」
(今度は何しやがった!)
次いで出た言葉と二重に聞こえる声に私はにやりと口角を上げる。
同胞よ、なんと強大で恐ろしい力の持ち主だ。
ロナルド君は慌てて自分の口を掌で覆うも、ずんずんと歩みを進めて私の隣でぴたりと足を止める。
ほほう、行動にも表れるのか、素晴らしい。
ロナルド君は顔を真っ赤にして首を横に振るが見てるこっちはちゃめちゃに面白い。
私がわざと同胞の方へ二、三歩移動すれば、ひよこのように着いてくる。
何これ、面白~い!
「面白、違った、恐ろしい力を持った同胞よ、ちょっとお耳を拝借」
素早く同胞に耳打ちをする。
「これどれくらい効果ある?」
「寝るまでがrndrの日なのでお二人が眠りにつくまでですね」
結構雑設定だね、って笑おうとしたら体がふわりと宙に浮く。
びっくりして耳の先だけ砂ったものの、私の体はロナルド君の腕の中に納まった。
死なない力加減で抱きしめられロナルド君の真っ赤な顔が真横に来る。
これは所詮、バックハグ的な?
背中から感じるロナルド君の体温と心音にガラにもなく私の方まで顔が熱くなる。
「ドラルクがケガしないか死なねぇか心配なんだよ。俺が絶対に守ってやるから俺の背中に隠れてろ」
(やっぱりお前が面倒事引っ掻き回すじゃねぇか、ふざけんなよ。だから下がってろって言ったのに)
うっひょ~!最高にポンチだねこの能力、とりあえず録画しよ。
スマホを取り出して最愛の使い魔、ジョンに渡すと、ヌ、と指を立てて撮影しやすい場所に移動する。
流石私のジョン、分かってる。
「うぁぁぁぁ…rndrバックハグ頂きました…ごちそうさまです…と言う訳でドラルクさんにも催眠かけときますね」
地面でのたうちながら私達を崇めていた同胞が急に私に向けて光を放つ。
逃げる術がないので食らってしまったが、愚かな同胞よ。
「私、ロナルド君だぁい好き」
(私に催眠は効かないのだよ)
…待ってほしい。
「はい、待ちます」
私の心の声に同胞が答える。
そうか、さっきロナルド君の裏の声が聞こえるって言っていたから本音も何もかもお見通しな訳だ。
「ぎゅってして。後ろからは嫌だよ。君のその麗しい顔をよく眺めさせておくれ」
(私に催眠は効かない、効かない筈なのだ。どういう事だ同胞よ!)
自然にロナルド君の腕の中で体制を変え向かい合う。
彼の肩に腕を回し一層ロナルド君の整った顔が近付く。
ロナルド君も腰に手を回しぎゅっと抱きしめてくれた。
「ドラルクさんの考えた通り私の力は『限定』が過ぎるんです。対象範囲が貴方達二人だけへの力なのである程度強力な催眠なんですよ。だから普段催眠にかかりにくいドラルクさんにも影響してもらわないと」
私がかかるくらいだ、ある程度、なんてかわいらしいもんじゃない、この同胞、厄介だ。
「二人が末永くイチャついてくれればいいのです…」
「ロナルド君キスしたい。昨日みたいにえっちなキスしよ」
(こいつ手強い、ロナルド君早く応援を呼ぶんだ)
「俺だってドラルクにめちゃめちゃキスしたい。でもこんなとこでしたらドラルクのエロい顔皆に見られちまうだろ?帰ったら覚悟しとけよ」
(馬鹿野郎!こんな状態でサテツ達呼んでみろ!明日、なんならその瞬間から俺達には死しか道はない!どうすんだよこれ!)
結界か何かか、幸か不幸か人っ子一人通らないこの状況下で手も足も出な……いや待て。
意を決して深く息を吐いて、ロナルド君の顔を真正面から見据える。
「ロナルド君のカッコイイとこ、見たいな」
するり、とロナルド君の頬を撫でる。
「ドラルク…?」
「早くアイツ退治して…帰って…シよ?」
そのまま軽く触れるだけの口付けをロナルド君に与えて、いつもは言えない事を言ってしまう。
恥ずかしいけど全て本当のこと。
外見もそうだが、彼が戦闘態勢に入れば凛々しさは何倍にも増す。
それが、その姿が好ましく思うのは至極当然の事。
獲物を狙うその瞳は熱を帯びる前のそれを思いだす。
「特等席で目に焼き付けとけよ。俺のかっけぇとこ」
ロナルド君はそう言うと私を左腕だけで抱え抱くと、空いた右手で悶え苦しむおポンチ同胞を思い切り殴り飛ばした。
「rndrに幸あれ〜!」
器用に身動きが取れないよう拘束具を同胞に取り付けたロナルド君は不意にジョンに視線を向けた。
「ロナルド君?ジョン?」
(ドラルク様のスマホからギルメンに連絡済みヌ。もうすぐ到着予定。今日は特別ヌ)
(すまねぇありがとなジョン。明日の夕方には事務所に戻るから。今度ドーナツ買い行こう)
何故かアイコンタクトの後、指を立てて合図を送り合い、ジョンをそこに残したままロナルド君が踵を返す。
「ロナルド君?」
私を腕に抱いたまま足早に事務所とは反対の方向へ向かう彼の瞳の奥から熱を感じた。
「抱くから」
もう二重に声も聞こえない。
これがロナルド君のいつも思ってる事だと思うと急に恥ずかしさが込上げる。
まぁ、でも、今日くらいは。
ぎゅっとロナルド君に抱き着いて耳元で囁く。
「いっぱい愛してね」
(死ぬ)
(悪かったって)
(死ぬ)
(言って死んでねぇじゃん)
(…)
(照れんなよ)
(何をどう見てそうなったんだ)
(お前を見てだよ。耳の先赤くなってんぞ)
(きぃ!目敏い!)
(あ!布団に逃げるなこら)
(捲るな)
(うわ…)
(見る、なっ…ばか)
(俺が出したの溢れてんじゃん、えっろ)
(散々中に出しただろ)
(…)
(興奮するな)
(ドラルク)
(やだ、もうシない)
(もう一回だけ)
(…)
(優しくするから)
(…)
(…)
(ゆっくり、じゃないと本当にもう死ぬから)
(分かった)
(あと)
(ん?)
(キスして)
(お前…ほんと可愛いな)
(それはいつも思ってる事?)
(当たり前だろ)