推し尊い好き辛いしんどい好き。皆様こんにちは、ダンピールのドラルクです。
つい先程恋人から仕事が押しており帰宅が遅くなると連絡がありました。
お仕事を頑張る事はとても良い事です、でも無茶はしないで欲しい。
無茶をし過ぎて身体を壊す事も厭わない、それは彼の癖のようでとても心配になる。
『今日のご飯は唐揚げとポテトサラダだよ』
そんな恋人に好物が待っているとメッセージを送る。
帰宅時間を早めに想定していた為、既に食卓の支度は整っている。
彼を迎えてお風呂に向かうその背中を見届けてから唐揚げは揚げればいい。
揚げたてが1番、それを嬉しそうに頬張る姿が安易に想像出来て顔が綻ぶ。
ポテトサラダはもう完成している。
食べる直前にマヨネーズ足そうかな。
ほうれん草の胡麻和え、彼にとってはほうれん草も小松菜も区別がつかなくて葉っぱ呼びだが、栄養はたっぷり。
キャベツと人参と胡瓜の千切りサラダも彩りと食感を楽しむ為に盛り付けにも拘ったし、玉ねぎと豆腐とワカメのシンプルな白味噌汁も完璧。
と言う訳で時間がある!
私の!推し事のお時間です!
ばたばたと準備に取り掛かる。
彼の姿を見る為だけに買ったと言っても過言ではない、超大画面の有機ELテレビ。
1番画質のいいもの下さい、と家電売り場で店員さんに詰め寄って購入したものだ。
それだけ、何も無かった私の生活に彼は色を咲かせてくれたのだ。
DVDをセットしてペンラを手に再生ボタンを押す。
タイトルからの暗転、そして黄色い歓声、ライトアップ。
「あー!!!ロナルド様ぁ!!!」
映し出された銀髪碧眼に声を上げる。
ペンラを彼色に光らせ、画面いっぱいのブルートパーズの瞳に心臓が高鳴る。
私の推し、3人組アイドルグループの1人、ロナルド様。
アクロバティックなパフォーマンスがド迫力で、ファンに対しても真っ直ぐで一生懸命、そして親しみやすいライブのMCも魅力的で面白くて、何より顔がどストライクに好み。
「うぇ…かっこいい…好き…死ぬ…尊い…」
このDVDだって何十回、何百回と見てるからいつどんなカットで何秒映し出されるのなんて覚えている、分かっているのに、画面でバク転をキメるロナルド様に語彙力を持っていかれる。
「はぁ肉体美…声がいい顔がいいかっこいい好き」
息切れるしロナルド様かっこよ過ぎて涙出てきた。
いやでも今瞬きすると
「きゃー!!ロナルド様の照れ顔キター!」
良かった見逃さなくて。
ロナルド様のカメラ目線とぎこちない照れ笑い。
何度見ても初めてかのように心奪われる。
「えーん推しがかっこよすぎてしんどい」
カメラワークで彼が写ってない時を狙って涙を拭う。
これで万全にロナルド様を目に焼き付けられる。
「この曲からのこの歌は卑怯ー好きぃ、セトリ完璧。考えた人天才過ぎるありがとうございます」
バラードからのアップテンポな曲にシフトチェンジしたがこれは歌詞の内容からして恋に悩む男性目線のバラードからの恋が実った恋人同士の日常を彼目線から描く恋歌で最高のセトリであり彼らの早着替えからのシリアス表情からの弾ける笑顔が最高にアイドルでかっこよくて最高なのだ(早口)。
「笑顔可愛い衣装めっちゃ似合うやばい好き」
語彙力どうしたと言われようがどうしようもないのだ、私の語彙力なんかで、いや、人間の言葉なんかでロナルド様の素晴らしさを現す事など不可能なのだから。
「え、ちょっと待って今のロナルド様の華麗なターンもっかい見たい巻き戻す」
何度も見ているのに何度でも見返したくなるので、リモコンを手にボタンを押してここだ、と言う所で、一時停止を押す。
「はー飛び散る汗まで素敵、煌めいてる。ロナルド様を着飾る衣装のようになくてはならない存在。ありがとう汗」
一時停止を良い事に両の手を合わせ感謝を唱えながら画面を凝視する。
「うわ肌綺麗、睫毛長っ。やば、面が良い」
推し事に夢中になるとやらかしてしまうのがスマホを放って置いてしまう事。
案の定、メッセージが来ているのをすっかりと見逃してしまっていた
「だめ死ぬ」
仕事で遅くなったけど、俺の帰りを待っていてくれる人の為に大急ぎで帰宅して部屋に入ろうとしたらその一言が聞こえてきた。
え?死ぬ?死ぬの?ドラルク死ぬの?
メッセージも既読にならないしどうかしたのかと心配していたが、その後に聞こえてきた聞き慣れた音楽で合点がいった。
彼は現在進行形で推し事中。
だからメッセージは放置されるし、俺が帰ってきた事にも気付いていない。
凄く複雑な気持ちではあるが、仕方のない事なので、気を紛らわす為に夕飯を物色する。
荷物をソファに置き、キッチンへ入る。
ポテトサラダ、じゃがいもがゴロゴロしててハムも分厚くて美味しそう、つまみ食いすると怒るから我慢。
冷蔵庫の中には味付け済みの唐揚げの肉、これがあのさくじゅわジューシーな唐揚げになるなんて、ドラルクはまるで魔法使いのよう。
あ、プリン発見、程よい甘さのそれは思い出すだけで涎が出そう、嘘出てる。
「きゃー!ロナルド様素敵かっこいい!好き!」
背中の方から叫び声。
びくっ!と体を弾かせてそろりと振り返ると誰もいない。
画面の中か、そう思った。
それと同時にもやり、と心の中が曇る。
嫉妬、と言う名に部類されるそれにあれは俺自身への賞賛だから、と言い聞かせて頭を振りシャワーでも浴びようかとキッチンを出た所でイントロが流れてきた。
「あ…この曲はだめ…お色気担当のロナルド様の雄フェロモンがばりばりでかっこ良さが前面に出て老若男女誰彼構わず死人が出るやつぅ…好きぃぁ」
ぴすぴす、と彼が鼻を鳴らす。
俺はその仕草が密かに好きだったりする。
彼の愛らしい鳴き顔を思い出してにやける、と、同時に悪戯心が顔を出す。
部屋に聞き耳を立てるとサビ終わりに近付いている。
俺は気配を消して彼の部屋に忍び込み画面に釘付けになっているドラルクの真横にしゃがみこむ。
そんな俺に気付く事もなくドラルクの目はキラキラと輝きながら画面の俺を見つめている。
タイミングを見計らってここぞとばかりにドラルクの両頬を手で包み込んでこちらを向かせ、驚愕の表情を浮かべるただ1人に向けて歌詞と同じ言葉を紡ぐ。
『「こっち見とけよ」』
画面から間奏が流れる。
ドラルクは何も言わない。
ただその瞳には俺が映っていて。
半開きになった唇、LIVEさながらの盛り上がりだったからか、身体も少し火照っている。
じわじわと恥ずかしさが込み上げてきて俺も無言だし、なんならちょっと顔が熱い。
「えっと…ド、ドラルクさぁん?」
どうにか平静を保って名を呼ぶが反応はない。
というか、瞬きしてなくない?
「え、ちょ、まじで息してる!?ドラルク!」
ぐらりと俺とは反対方向に倒れそうになるドラルクを抱えながら聞こえたのは消え入るようなか細い声。
「…神…」
そんな事言ってる場合かよ。
ロナルド様ゼロ距離キメ顔SSRショットを心に焼き付けながら意識を飛ばしてしまった私が起きた瞬間拝んだのは、膝枕をして心配そうに私を見下ろすロナルド君の顔だった。
「URロナルド君…」
「また言ってら」
呆れたように微笑みかけるロナルド君に若干また意識を手放しそうになったが何とか耐えた。
偉い私。
「大丈夫かよ」
「ん、平気」
ロナルド君の右手が私の額に当てられる。
太陽のような暖かさにほぅ、と息を吐く。
「鼻血出てた」
「拭いてくれたの?ごめんね、ありがとう」
不安そうに目尻を下げたロナルド君に謝罪とお礼を述べる。
「いい加減慣れ「それは無理」
ロナルド君の支えを借りながら起き上がると正座で彼に向き合う。
「お見苦しい姿を…」
申し訳ない、と頭を下げる。
「いや、俺も、なんだ、その…悪かった」
視線を外しながら頭を搔くロナルド君。
何も悪い事などしていない、寧ろ100億点のファンサを頂いたのだからこちらとしてはご褒美にも程がある。
2人で顔を上げて視線を交わして笑い合った。
「おかえりロナルド君」
「ただいまドラルク」
ああ、なんて可愛い笑顔なのロナルド君。
私しか知らない彼の子供っぽさを残した笑顔、他の人には知られたくないな。
私限定ロナルド君が1番可愛くてかっこいい!
(唐揚げ出来た!?美味そう!)
(本当に好きだな)
(え)
(唐揚げ)
(あ、そっち)
(お仕事頑張ったロナルド君にはご褒美のデザートがあります)
(プリン!)
(見たな。だが残念ハズレ)
(プリンじゃない…?)
(プリンアラモードだ)
(ぷりんあらもーど?)
((何その顔可愛いが過ぎるが?))
(プリンどんなモードになんの?)
(ふふふ、あとのお楽しみだな。今は存分に唐揚げポテサラコンビを噛み締めてくれたまえ)
(頂きまーす!)