華の街夜だというのに、色とりどりの灯りが街を照らす。
女達は煌びやかに着飾り、しなやかな四肢を伸ばして、蜜を吸いに来た男達を誘う。
此処は『華街』
朝も昼も夜も関係無く、気に入った『華』を買い、愛でる街だ。
煙管に火を付け、ゆっくりと煙を燻〈くゆ〉らせる。
窓の外には男を呼ぶ女と、女を選ぶ男達。
ああ、退屈だ。
「『無垢の蘭』」
甲高い女の声が響く。
振り返る事もせず、ぷかり、もう一度、煙を吐き出した。
私の名は別にある。
両親が付けてくれた名が。
「蘭!客だよ!」
肩を掴まれて、無理矢理に体の向きを変えられた。
ジロリ、と睨めば、女将が溜め息を吐いた。
「…はぁ…今日のは『相手』にするかい?」
その言葉に、開け放たれた襖の前に立つ男にチラリと目を向ける。
期待するような眼差し。
優しそうな顔をしている。
背は、そんなに高くない。
身体つきも若干、弱々しい。
「………『相手』には、しない」
私の言葉に女将は、また溜め息を吐き、男はガクリと肩を落とした。
「旦那、『相手』にはなれませんが、遊んで行かれますか?」
女将の言葉に男は頷き、その手に金子を乗せた。
金子の数を確認して、女将は私を見て仕事だよ、と言い放つ。
ふぅ、と煙を吐いて立ち上がる。
私は『無垢の蘭』
この店で一番高い『華』だ。