後世に残る大戦の後、世界は平和になったが悪事を企む輩が全くいなくなった訳ではなく、ヒーロー達は今日も平和を守るべく奔走していた。
今日も今日とてエンデヴァー事務所では、大小様々な事件を解決していた。
「確保!」
「今日も絶好調ですね」
強盗を働いた敵(ヴィラン)をエンデヴァーが確保して、私達SKが捕縛し警察に引き渡す。
当たり前だ、と言わんばかりにフンッと鼻を鳴らすエンデヴァーに、こういう所は昔から変わらない所だと小さく笑う。
「えんでばー!」
「ム?」
可愛らしい声に振り向けば、赤いワンピースを着た幼稚園児くらいの小さな女の子が目をキラキラさせて大きなエンデヴァーを見上げていた。
「可愛いファンですね。ほらファンサしてあげて下さい」
私の言葉にエンデヴァーは少し戸惑いつつも、女児の前にしゃがんで左手を差し出した。
大きな手に小さな女児の手が重なるのを見て、潰してしまわないかと内心ハラハラしているのは秘密だ。
「えんでば!がんばって!」
「ああ、ありがと、う……?」
手を振る女児とお辞儀をする母親を見送って、微笑ましさに頬が緩む。
街の人々からの声援はいつだって力になるが、特に子供からの応援は、子供達の平和な未来に繋がるんだと思うと、より力が入る。
「いやー可愛いですね〜。エンデヴァー?どうかしましたか?」
「何か違和感が、ぐっ!?」
話しかけながらエンデヴァーを見上げれば、怪訝な顔をしていて。
どうしたのかと問うた瞬間、彼が呻きガクリと膝をついて崩れ落ちた。
「エンデヴァー!?キドウ!バーニン!エンデヴァーが個性を受けた可能性!」
捕まえた敵(ヴィラン)を警察に引き渡していた2人の名前を呼ぶ。
私の剣幕に2人は瞬時に動き出した。
「赤いワンピースを着た女児とその母親の確保を!」
「分かった!」
走り出す2人を視界の端に映し、エンデヴァーの様子を見る。
苦悶の表情に、炎が不安定に揺れている。
「夢主!所長から何か煙みたいなのが出てる!」
「どんな被害が出るか分からない!オニマー煙を吸い込まないで!緊急避難!」
駆けつけてきたオニマーに指示を飛ばす。
個性を発動して、周りの一般人を巻き込まないように誘導する。
「水で壁を作ります!エンデヴァー!しっかり!」
「ぐぅ、ぁ…」
エンデヴァーから出る煙のようなものが段々と濃くなってくる。
煙を吸い込まないように水を操る。
いつエンデヴァーの炎が暴走するとも限らない。
彼の受けた個性がどんなものかが分からない以上、様々な想定をし、如何なる場合にも対処できるように身構える。
「…エンデヴァー!?」
「所長が消えた?!」
濃い煙を水で掻き回すように散らせば、そこにエンデヴァーの姿はなく、彼がいた場所には、ポツンとヒーロースーツが残っているだけだった。