いい子なんて、もうやめた教官は、いつも私を褒めてくれる。
「素晴らしいよ!愛弟子!」
励ましてくれる。
導いてくれる。
可愛がってくれる。
教えてくれる。
けど、愛してはくれない。
「いい子だね!愛弟子!」
いい子になれば、大好きな教官が、たくさん褒めてくれたから、いい子だった。
よく頑張るいい子だったら、もっと褒めてもらえると、たくさん頑張った。
「…教官、私…」
もう、いい子はやめます。
「どうしたの?愛弟子」
「…いいえ?」
いい子だった私を褒めてくれたけど、『いい子』なだけで、教官は振り向いてはくれなかった。
じゃあ、いい子をやめて悪い子になったら?
教官は振り向いてくれるだろうか?
それとも、見放される?
「愛弟子!今日はどこに行くんだい?」
いい子の私だったら、笑顔で行き先を告げて、教官からの言葉を待っていただろう。
悪い子になるのは簡単だ。
反対の事をすればいい。
「…教官には関係ありませんよ」
フッと笑って暖簾をくぐる。
驚いた顔の教官は、とても可愛らしく見えた。
いつも着ていたカムラノ装備は脱ぎ去って、触れれば毒が回りそうな艶〈あで〉やかな装備を身に纏う。
真っ赤な紅を引いて、瞼には黒い影を落とす。
「愛弟子?…最近どうしたの?」
戸惑う教官の顔の、なんて可愛らしい事。
腹の中と同じように笑ってみせた。
「どうもしませんよ?」
待って、と伸ばされた手を振り払って、一緒にクエストに向かう男達の元へと、ヒラリ、舞い降りる。
何が何だか分からない。
そんな顔をした教官が愛らし過ぎて、笑みを浮かべて、ひとつ助言を。
「私、いい子はやめたんです」
見開かれた金色の瞳には、私だけが映っていた。