ひざまくら気にしないようにしているが、どうにも気になる。
モゾモゾと、耳に違和感。
耳が痒い。
「どうされたんですか?教官」
「んん…いや、ね。耳が痒いなぁって…何か、入ったかな?」
「私が見ましょうか?」
「え」
椅子に座った愛弟子が、自身の太腿をポンと叩く。
ここに寝転べと。
いや、しかし、そんな。
うら若き乙女の太腿に、おじさんが頭を乗せてもいいものだろうか、と。
だが耳は痒い。
自分で見る事は叶わない。
疚しい事は無い。
自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
「…失礼します…」
頭に、頬にあたる柔らかい感触。
花のような匂いと愛弟子の匂いが、ふわりと香る。
「じゃあ、ジッとしてて下さいね」
「う、うん…」
温かく柔い指が、俺の耳に触れた。
擽ったさに少し肩が揺れた。
あー。ダメ。ダメだよ愛弟子。太腿やーらかー。いい匂いがする……い、いかん!愛弟子は善意でやってくれてるのに、俺は何を考えているんだ不埒者!あー、けどホント気持ちいい。耳もだけどホント太腿が……ってダメだっての!!温かい…柔らかい…いい匂い…指が少し擽ったいなぁ。何だか眠くなってきた。キミの側にいると、こんなにも幸せなんだなぁ。
心地よさに目を閉じて。
時折、聞こえる愛弟子の声が眠気を誘った。
「…かん……教官?」
「んぇ?」
肩を揺すられて、ハッと目を開く。
見上げれば、愛弟子の姿。
あれ?見上げる?俺、何してた?
ぼんやりしていた思考が徐々にハッキリとしてくる。
耳が痒くて、愛弟子が見てくれるって、膝枕で、心地よくて…?
「…俺、寝てた?」
「はい。少しですけど」
クスリ、と笑う愛弟子に、まだ頭の下に彼女の太腿があるということに気づく。
「ご、ごめん!重かったでしょ?」
「大丈夫ですよ。あ、耳ですが、小さな髪の毛が入り込んでいました」
慌てて起き上がった俺に、愛弟子は笑って、俺の耳から出てきた髪の毛を見せた。
細くて短い髪の毛。
産毛に近いそれは、抜けて耳に入り込んでしまったのかもしれない。
「あ、ありがとう!…そうだ!お礼にうさ団子奢るよ!」
「いいんですか?」
オテマエさんにうさ団子を頼む。
程なくしてやって来たうさ団子を見て、愛弟子は嬉しそうに笑って団子を頬張った。
「また耳が痒かったり、…疲れた時は言って下さい。私の膝を貸しますよ」
にっこり笑う愛弟子に、曖昧に返事をして。
頰に残る柔い感触に、今日は眠れるかな、と小さく小さく溜め息を吐いた。