あくタイプ初めて会った時は、こんな大人しそうな奴が、あくタイプの天才なんて呼ばれているなんて信じられなかった。
ダイマックスしないなんて、きっと退屈なバトルになるだろう。
そんなバトルはしたくない。
そんな事を考えていた傲慢なオレさまは、バトルが始まった瞬間、その考えを改めさせられた。
自分の技をバラしても、なんら問題もない実力。
時折フェイクをかけてくるのが非常に、あくタイプらしい。
「お上品なバトルしてやがりますね!」
何より、一瞬で人が変わったかのようにギラつくネズに心底、驚かされた。
ダイマックスをしないでこの実力。
ネズは、まさに天才だった。
キョダイマックスしたジュラルドンの体力が削られていく。
ダンデ以外にも、こんなに胸を熱くさせるバトルがあるなんて。
楽しい時間はあっという間に過ぎていって、バトルはオレさまの勝利で終わった。
互いにポケモンを戻し、握手をする為に中央へ寄って行く。
まだ高鳴る胸の鼓動に任せて、思わず握手する手に力が篭ってしまった。
「ダイマックスなしでこのバトル!凄かった!」
「どうも」
「またやろうぜ!ネズ!」
「生憎、アンコールはしねーんです」
熱く語るオレさまとは裏腹に、バトルの時のネズはどこに行ったのか?と思うくらいに静かに言葉を口にする。
ストリンダーみたいなヤツだ。
ハイとローで全然違う。
「おまえが好きなのはダンデじゃねーんですか?」
「そりゃ、ダンデを倒す事を目標にしてたけど、あくまでライバルとしてだ」
「オレさまが、好きなのは、…ネズだよ」
「紛らわしか〜」
「おまえら距離感がバグってんですよ」
「全く、おれみたいな男のどこがいいんですかね」
「さっきから普通に話してるけど、ネズは男に言い寄られて気持ち悪くねぇの?」
「ハッ!おまえ、そんな事気にしてたんですか?」
「ノイジーですね」
「おれは男だろうと女だろうと構いませんが」
「簡単に靡くほど安くはねーです」
「その無駄に良い顔は飾りか?」
細長い指で、顎を、つい、と撫でられる。
「その鍛えられた肉体はマネキンか?」
顎にあった指が、首から胸に降り、トンっと胸を突かれる。
「トップジムリーダー様の戦術はワンパターンか?」
キスしそうな程に顔を近づけて、ネズは、ニヤリ、と笑う。
あまりの近さに、思わず手が伸びるが、その手を、するりと躱してネズは離れていく。
「欲しけりゃ、せいぜい頑張ってみな」
振り向きざま、首のチョーカーに指をかけて。
チャリチャリと音を鳴らし、舌を出して笑いながら、ネズは手をヒラヒラとさせて歩き出した。
「上等じゃねぇの」
キバナさまの、この顔はオマエ好みか?
この鍛えられた身体で、オマエの身体を開いてやるよ。
オマエこそ、もうちょっと肉つけろよ。
オレさまについてこれねぇぜ?
どれだけ躱されても、負け込んでも、諦めねぇよ。
しっかり対策してオマエの喉元に噛み付いてやるから覚悟しろよ。
「まあ、悪くはねーですよ」
「ネズって意外とよく食うよな」
「身になりにくいんですよ」
「歌ってるとカロリー消費激しそうだもんな」
「オマエ顔色悪くね?」
「いつもこんなもんでしょう」
「いーや、絶対いつもより悪いって。ちょっと座って待ってろ」
「!何ですか?」
「ホットタオル。気持ちいいだろ?」
「これは……寝そうです」
「寝てていいよ。時間が来たら起こしてやるよ」
「ん……は、……んん」
「は、…ネズ、んぅ…」
「キスは、まあ及第点ですね」
「なんだよそれ」
「随分、お上品だな、と」
「好きな奴には優しくしたいだろ」
「そ、うですか」
「続きはしねーんですか?」
「……エッチするなら付き合ってからがいい」
「おまえ、意外とロマンチストですよね」
「うるせー」
「もしかして、キスも付き合ってからがよかったですか?」
「…………」
「図星ですね」
ネズを避けるキバナ。
「おまえ、もうおれの事は好きじゃねーんですか?」
「何だよ急に」
「…い、え、何でもありません」
「キバナさんはアニキの事、好いとぅんじゃなかと?」
「不安にさせんとって」
「アニキ泣かせたら許さんけんね」
「やっぱり、おれなんかじゃダメだったんでしょう」
「違っ…」
「思ってたのと違いましたか?」
「ネズッ…」
「ネズ…好きだ…」
「オレさま、少し欲が出たんだ」
「もし、ネズがオレさまのこと好きじゃないって言ったら、耐えられなくて」
「おれを変えたのはキバナでしょう」
「おまえが触れるのは嫌いじゃねーです」
「ちゃんと言って」
「ワンパチみてぇな顔しやがって」
「アンコールはねーですよ」
「おれも、好きです」
「だから、放っておかないでください」
「うぐ…」
「キバナ…」
「…っ、オマエ!ワザとやってんだろ!」
「バレました?」
「けど、好いとぅんは本当ですよ」
「〜〜襲うぞ!」
「どうぞ」
「待ってんですよ」
「もーー!!」
「フ、ハハハッ!」