盛大に祝われて里を出た。
けれども私を待っていたのは幸せな新婚生活ではなく、奴隷のような日々だった。
クエスト報酬は夫の家に全て取られ、義母には家の事を全て押し付けられ、碌に手入れもできない装備で命からがら狩猟を終えた後に必死で家事もこなした。
何か失敗する度に出来の悪い嫁を貰ったと罵られ、クエスト報酬で生活しておきながらモンスターを狩るなんてとハンター業を咎められ、いつも最後には子も産めない石女だと足蹴にされた。
未だ生娘の私に、子など成せるはずもないのに。
夫は初夜の夜、私の傷だらけの身体を見て醜いと罵り私を抱くことはなかった。
代わりに家の金で女を買い、毎夜毎日飲み歩くようになった。
今までの夫とは全く違って、別人になってしまったのかと思ったくらいだ。
それでも嫁いだ身だと必死に頑張ってきた。
どれだけ嫌味を言われても、必死で作った食事をひっくり返されても、死にそうになりながらクエストから帰還した時も。
疲れ果てて、それでも家事をしなければと夫の着物を広げた瞬間、プツリと糸が切れてしまった。
私はこんな日々を送るために大好きな里を出たのか?
帰りたい。
カムラの里に帰りたい。
けれど出戻った私に帰る場所なんてないだろう。
涙すら枯れて、泣く事も出来ずに項垂れる私の耳に、聞き慣れた鳴き声が聞こえた。
弾かれたように顔を上げれば、目の前の物干し竿に留まるフクズクの姿があった。
「…フク…ズク?」
懐かしい言葉を口にすれば、物干し竿から飛んで。
咄嗟に差し出した私の腕にフクズクが留まる。
愛らしく首を捻るフクズクの足に結んであった文を開いた。
『やあ、愛弟子。そっちで元気にやっているかな?キミは料理が少し苦手だったから心配だよ。』
今まで幾度となく見てきた文字。
頭の中に教官の声が蘇るようだった。
『キミの幸せを願っているよ』
最後に書かれた一文に、涙が溢れて止まらなかった。
枯れたと思っていたのに、次から次へと溢れて止まらない。
私の幸せ。
今の生活これは、教官が願ってくれた私の幸せでは無い。
考えるより先に体が動いていた。
ボロボロの着物を脱ぎ捨てて、ないよりマシな程度になってしまった装備を身に纏って、数少ない私の荷物を持って家を飛び出た。
私の様子に義母が飛び出てきたが、ハンターである私を押さえつけられるわけもない。
走って走って走って縁切寺まで走り抜けた。
一歩、寺へと足を踏み入れた瞬間、私を縛り付けていた鎖が解き放たれた。
「…愛弟子!!」
「教官……私…頑張った、んですが…駄目、でした」
珍しく息を切らして現れた教官に、へらりと笑ってみせたが、もうダメだった。
教官を前にボロボロと涙が溢れて、子供のように泣きじゃくった。
「…ごめ、っさい…っ、わた、しぃ…っ、わたしっ…」
俯いて、必死で涙を拭う。
恥ずかしい。
こんな姿、教官に見られたくなかった。
「折角…里のみんなが盛大に送り出してくれて…私の幸せを願ってくれたのに…」
「誰も咎めやしないさ」