一体どこで間違えてしまったのだろうか?
見上げてくる双眸の鋭さに、ぞくりと背筋に冷たいものが走った。決して逸らすことを許されない獰猛な瞳は、狂おしいほどの激情を孕んでいる。煮えたぎる怒りを隠そうともしない青年の気迫に柄にもなく気圧されて、じりじりと後ずさっていた。
しかしそんな子供じみた抵抗はいつまでも続かない。あっという間に壁に阻まれ逃げ場を失った。背中に触れる硬くてひんやりとした感触にぎくりとする。悠仁が一歩足を踏み出せば、一瞬にして距離が縮まった。
「先生、約束覚えてるよな?」
ーー
花を愛でる趣味なんて持ち合わせていない。けれども薄紅梅の花びらがぽろぽろとこぼれ落ちる様に、どうしようもなく心を惹きつけられた。純粋にうつくしいと、そう思った。丸く愛らしい花びらは、いつの間にか枯れてしまった五条の涙の代わりなのかもしれない。
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