おやすみなさい、良い夢を行為に疲れ果てた辻ちゃんは、今日も気を失うみたいに果てた後眠りについてしまった。そうなったら後処理をしてあげるのがおれの役目で、おれは出来る限り辻ちゃんの身体を綺麗に清め、風邪を引かないようにとタオルケットを掛ける。横向きで少し丸くなって眠る辻ちゃんの背中を合わせるように、おれも反対向きになりスマホを手に取った。
——寝れない。最近どうも、寝付きが悪い。
身体は疲れているはずなのに、どうも眠れなくて、おれはぼんやりと液晶を眺め続けた。
しばらくして、後ろからゴソゴソ動く音がする。振り返って目をやれば、「せんぱい……?」といつもより数段甘い声が聞こえた。掠れているのに、甘いその声はこういう時の辻ちゃんからしか聞こえない声で、おれはそれが大好きだった。おれが腕を上げれば、辻ちゃんははっきりとしない意識の中でも頭を上げて、その下に腕を通させてくれる。それが通じ合ってるみたいで嬉しい。腕枕をした辻ちゃんは、そのまま当たり前みたいに引っ付いてきて、少し覆い被さるようにおれの身体に腕を回した。
「………ねれないんですか?」
甘く掠れた声が、おれの耳元で聞こえる。おれは「うん」と応えて、スマホを枕元に置いた。空いた方の手で、抱きついてきた辻ちゃんに手を伸ばす。重なった半身から、じんわりと辻ちゃんの熱が伝わってきた。夏で暑いのに、この体温が心地良いと思うのはなんでだろう?
「……おやすみ……なさい……」
辻ちゃんはそう呟くと、またすぅすぅと規則正しい寝息を立て始めた。熱と寝息と、それからトクトクと一定のリズムで刻まれる心音が、おれに伝わる。何かの糸が解かれるみたいな、不思議な感覚がした。さっきまで来る気配のなかった睡魔が、急に全身を襲う。いつだって、おれを安心させてくれるのはこの子なんだ。
おやすみ、辻ちゃん。
もう言葉にも出せなくて、おれは辻ちゃんを抱きしめたまま、ようやく深い眠りについた——。