Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    榛野🌸

    @ato3hnetai

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    榛野🌸

    ☆quiet follow

    御百度参りするDK伽羅くんとカフェオーナー光忠さん

    冬はなんだかそわそわと落ち着かない気持ちになる。
    白くどよっとした薄曇りの空のせいかもしれないし、クリスマスや正月といった浮き足立つ行事を子どもの頃から繰り返しているせいかもしれない。なんにせよ、今年の冬は殊更胸がどきどきしていてもたってもいられない日々が続いていた。弟の貞宗が高校受験を控えているのだ。
    志望校はすでに射程圏内に入っており、よほどのことがない限り合格は堅いだろうと貞は笑っていた。確かに見せられた模試の成績は合否のボーダーラインをゆうに超え、言葉の通りよほどのことがない限りは合格間違いなしだろう。だがその「よほどのこと」が起きないとも限らないと、伽羅は白い息を吐きながら目の前に広がる境内をぼんやりと見つめた。
    2年前の自分の受験の時は自力で合格を掴み取ることしか考えなかったし、机上に飾った両親からの贈り物の合格お守りにも内心頼ってやるものかと思っていた。だが貞のこととなると話は別だ。貞の成績にも集中力にも信頼をしているが、あいつの力ではどうにもならない万が一のこと…たとえば路面凍結した道路ですべって両手を骨折するとか…前日に食べた肉にあたって腹を下すとか…があってあいつの顔が曇るようなことがあってはならない。細心の注意を払っても全ての危険を排除できないことはわかっている。だがせめて、と街中で合格グッズを見かけるたびに小遣いで買っては貞に渡す俺を見て、「お百度参りをしてはどうだ」と従兄の国永が勧めてきた。
    「お百度参り?」
    「心願成就のために、百回神社にお参りをすることさ。一日で百回参拝してもいいし、一日一回の参拝を百日続けてもいい。なにかしないと落ち着かないなら、やってみてもいいんじゃないか?」
    そういえば近所には小さな神社がある。特に学問の神様という話は聞いたことがなかったが、国永によれば神様は懐が深いからある程度幅広に願いを叶えてくれるらしい。一日に百回繰り返すのは大変そうだから、登校途中に寄ってお参りするのがいいかもしれない。あいにく通学路とは異なる道沿いだが、少し早めに家を出れば問題ないだろう。かくして今日がその初日、記念すべき第一回目だ。
    「ここにくるのも久しぶりだな…」
    前回来たのは3年くらい前の初詣だった気がする。べつに毎年初詣のためにどこかの神社に行くわけではないが、お節をつまみにやってきた国永に連れられて貞と俺との3人で今年一年よろしくとお願いしたような。その3年前がどんな年だったかあまり覚えていないが、逆にいえばまあまあ無難にいい年だったのだろう。その無難さが今とても必要だ。
    鎌倉時代に創建されて以来何度か改修を重ねたという拝殿は、柱の木の皮がところどころ剥がれ落ち、天井近くには色あせた千社札が折り重なるように貼られている。賽銭箱の文字によれば、前回の改修は23年前らしい。お宮参りはこの神社だったと母さんから聞いたことがあるから、自分や貞の生まれたときにはすでにこの拝殿はあったのか。長らく自分たちを守ってくれているんだな、としみじみとしながら、財布から取り出した小銭を賽銭箱の隙間に投げ入れて、鈴から連なる縄に手を添えた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works