「ねえからち…」
「今みつただっちとさだむねっちを鍛錬に送り出すところだ。忙しい」
「……」
伽羅ちゃんは僕の方を振り向きもせず、てのひらの上の2つの球体を食い入るように見ている。
「そうだ、今日は畑当番だな。ああ…天気も良いな。体力づくりにも畑仕事は適している。さだむねっち、さぼるのは粋じゃないぞ。みつただっちを見習え」
「…………」
「ああ…よくやったな。随分とふくよかに実ったトマトだ。お前たちが日々頑張って世話した成果だ。このトマトはどうやって料理に使えば良い?みつただっち」
「今日はトマトたっぷりハヤシライスだよ」
「そうだハヤシラ………光忠、いたのか」
「ずいぶん前からね」
驚いたようにぼくを見つめる伽羅ちゃんの瞳は驚くほど澄んでいて、どうやら本気で僕の存在を今になって初めて認識したらしい。
「ねえ、おもちゃもいいけれど僕にも少し構ってほしいな」
「おもちゃじゃない、主の命で養育を任された、たまごっち本丸の刀剣男士、みつただっちとさだむねっちだ」
至っていつも通りの落ち着いた深い声で伽羅ちゃんは語る。
「その…ええと、みつただっちくんとさだむねっちくんは、ずっとお世話し続けないといけないの?」
「以前存在した旧式の『たまごっち』とやらは、身の回りの世話をしてやらないと病にかかり死んでしまうと聞いた」
「彼らは?」
「こいつらは…そのようなことはないと聞いてはいるが……」
見ていればわかる。小さないきものが好きな伽羅ちゃんは、このてのひらの中に預けられた小さな命が愛おしくて仕方なく、懸念はないと聞かされていても万が一の不測の事態が起きることが怖いのだろう。とはいえ、僕もこれ以上ほっとかれるのはちょっとね。
「ね、そろそろみつただっちくんもさだむねっちくんも、お昼寝の時間じゃない?」
「ん?…ああ、たしかに、畑当番の後だし眠そうな顔をしているな」
「(眠そうな顔?)じゃあさ、ふたりがゆっくり寝てる間、僕のお世話もしてくれない?」
「は?」
「もう一振りのきみのみつただっちもさ、そろそろ伽羅ちゃんにお世話してもらわないと病気になって折れちゃうかも」
ぽかん…といっとき僕を見つめた伽羅ちゃんは、すぐさま口角を少し上げててのひらのたまごっちを文机に置いた。
「まったく…よっぽどこっちのみつただっちの方が手がかかるな」
「ふふ、ありがとう伽羅ちゃん」
すやすや眠っている小さな刀剣男士くんたちを横目に、僕は伽羅ちゃんの背に両腕をまわしてゆっくりと唇を寄せた。