僕達は親友ではないけれど(略) 今こうして肉体を得たばかりの僕は、言うなれば、贈答品なのだろう。僕はそれに値する価値を見出だされた。それは物として、刀として、誇るべきことと言える。けれど、些か違和感を覚えてしまうのは、僕が刀としてではなく、肉体を得て、或は人を模した存在となってしまったからなのだろう。
(僕はこれからどうなるんだろう…)
これは政府より審神者への感謝と労いという体で行われる、戦力拡大を目的としたもの。特定の条件を満たした本丸へと、希望の刀が一振ずつ配給されるという制度の元、僕は一時的に権限された。たった今から、僕達は『試運転』をされるらしい。
簡単な戦闘と身体検査を受けた後、僕たちは各々指定された施設へと連れてこられる。周囲の刀達を見渡す限り、数多ある本丸の数と比較しても少なすぎるのは明白だ。また、不可解な符号が刻まれていることから、同じような施設が複数存在するだろうと推測できた。
僕たちは全員に支給された同じ衣服を身に纏い、二十振り前後に振り分けられ、各々の担当職員へと連れられて行く。同じ方角を向けられた机と、大きなスクリーンだけが置かれたこじんまりとした部屋へと指示されるままに足を踏み入れる。
僕達はそこで毎日少人数で実践を模した戦闘訓練と戦況と正史に関する講習を受ける。早朝に始まり、夕方には自由時間が与えられる。政府役員から告げられたのは、訓練と講習を必ず受ける事、それから、この施設から外へ出ない事、それだけだった。施設には娯楽が多く存在し、始めこそ不信感を抱いていた者たちも、次第にこの不可解な生活を受け入れ始めている。かくいう僕もそのひとりであった。
キーンコーンカーンコーン、もう幾度となく耳にした鐘の音がする。途端、皆一様に肩の力が抜け、部屋全体の空気が和らいでいくのを感じ取る。職員の号令で講習の終わると、皆、我先にと部屋を飛び出していく。僕もそれに倣い、後に続く。
施設には膨大な蔵書を誇る書斎があり、放課後───誰がそう呼び出したかは分からないが皆そう呼んでいる───、僕は決まってそこに入り浸っていた。ギィと音のする重厚で重たい扉を開くと、瞬間的に外界を隔てるように空気が変わる。まばらに利用者の姿はあるが互いに見知った顔ばかりだ。視線を交わすだけの挨拶をして、もはや自身の定位置と化している隅の席を目指す。自然と等間隔に開く、この距離感がとても居心地がいい。
椅子に腰かけ一呼吸、ひとまず課題をこなさなくては、と鞄からノートと筆入れを取り出す。静寂の中にある静かな呼吸音と、微かに聞こえる紙を捲る音。ここはよ与えられた自室に籠っている時よりも集中ができると思う。
「…?」
課題をほぼ終えた頃、普段なら起こりえないどよめきがして、思わず顔を上げる。異様な空気感に、よからぬ出来事が起きているのだろうかと不安がよぎった。しかし、それは視線の先にいる者によって杞憂だと知る。この時、僕はこの肉体を得て初めて、視線を奪われるという感覚を知ったのだ。これまでだって美しい者も、美しい物も目にする機会は沢山あったというのに、ここまで視線を、心を釘付けにされたの初めてのことだった。
───硝煙と鉄の香り。つんと鼻を刺すその香りは、僕たちにとって慣れ親しんだもののはずで。けれど、この日々に慣れきっていた僕に───僕達にとって異様なものとして映った。
美しく柔和な顔立ちと、溶け入るような菖蒲色の髪。それらを覆い隠すように纏った黒い戦装束は、何の疑問も持たず揃いの服装を纏う僕達を嘲るようにすら感じさせた。青年は自身へ訝し気な視線を僕達を一瞥した後、大きくため息を吐いた。
「はぁ…久しぶりに帰れたと思ったらこれか。」
ばさりと戦装束を翻し、青年は重たい扉に手を掛ける。僕はらしくもなく駆け足になると青年の手を掴んだ。驚いた様子で振り返る青年の瞳に移る僕も至極驚いた様子だ。予定外の行動をとる僕の手を振り払うこともできず、青年は困惑に眉を垂れる。
「えーっと…はじめまして、だよね。どうかしたかな?」
「えっ、あ、いや…」
努めて穏やかに発せられたであろう言葉に、今度は僕が困惑を露わにする番だ。ぱっと手を離す。正直なところ、そう問いかけられても困る。何故こんな行動をとったのか、僕にだってよく分からない。
「こっ、ここへはよく来るのか…っ?」
青年はぱちくりと瞳を瞬かせる。その瞳の色も咲き誇る躑躅の花のように美しいのだな、と場違いにも感心した。
引く様子のない僕に観念したのか、青年は失笑を一つ、口を開く。
「…まぁ、元々ここは僕の場所みたいなものだからね。けれど君達のためにも暫くの間は───」
「なら、明日も会えるか?」
僕の言葉に、青年の瞳が再び見開かれる。何度も申し訳ない。けれど、僕だって驚いているんだ。何故かこの青年を前にすると上手く自身を制御できなくなる。僕は困惑した頭のまま、自身の名を口にした。
「ぼ、んんっ…私は水心子正秀だ。」
「…ああ、なるほど。僕は源清麿。江戸三作と称された名工のひとり、源清麿が打った刀だよ。明日もここへ来るよ、またここへ来られればだけれど。」
青年はにこりと微笑むと扉を抜けて書斎を後にする。茫然としたままいる僕の元へ、事の流れを傍観していた者達が駆け寄ってくる。けれど、彼らが掛ける優しい言葉すら耳に届かない。
───僕が何故こんなにも彼に惹かれるのか、その謎が少しだけ理屈付けられたように感じだ。
放課後、重たい扉を開く。ギィと軋む音も、いつもと何も変わらないというのに、今日はどこか特別に感じる。ふわふわと浮足立つような不思議な感覚は、きっとこの肉体を得てから初めての感じるものだ。書斎へ一歩足を踏み入れれば、よく慣れ親しんだ空気に迎え入れられる。それからいつも通り、慣れ親しんだ者達と視線だけで挨拶を交わして、いつもの隅にある席を目指す。けれど今日少し違うのは、そこには既に先客がいるという事だった。青年はあまり興味がない様子で手元の書物に視線を落としていたが、自身に向けられている僕の視線に気が付くと顔を上げた。
「君は…はじめまして、だよね?」
そう言って、柔和な表情で小さく首を傾げる。僕はそんな彼の言葉にふざけているのか、と驚く。けれど青年の表情からは僕を揶揄い嘲るような悪趣味な企みは感じられず、本当に全く心当たりがないといった様子だった。けれど、たとえそれが本当だったとしても、納得がいかないのが本音だ。言葉を交わしたのは昨日の出来事で、時間からすればまだ一日だって経過していない。そんなに早く忘れてしまうものだろうか。それほど僕は関心を持てない存在だったのだろうか、という悔しさもこみ上げる。
「あー…はは、違ったみたいだね、ごめん。」
僕は表に出しているつもりはなかったのだが、青年は察した素振りで申し訳なさそうに眉を下げると、口元は微笑みを浮かべたまま謝罪の言葉を口にする。なんだか、申し訳なさと同時に全てを諦めているような、そう対応することに慣れてしまっているようにも感じられた。
「いや、すまない。責めるつもりはないんだ。」
元より彼を責めるつもりはなかったが、彼の態度に尚の事そうする事に意味はないように思った。元より、また会えたら良いなと思っていただけで、何か約束を交わしていたわけではない。こうして会えたのだから、それだけで十分じゃないか。
「その、隣に座っても構わないだろうか?」
もちろん、と言って微笑んだ。椅子を引き腰かけたところで、ようやく彼が僕達と同じ装いをしていることに気が付いた。
「今日は戦装束じゃないんだ…」
こんなことにも気が付けないなんて、僕は自分でも驚くほどに舞い上がっていたのかもしれないと気恥ずかしくなる。それと同時に、素のままの態度を晒してしまったことにも気が付き、改めて自身の気の緩みを自覚する。青年は江戸三作と称された名工の一人源清麿の物語をもとにしている存在だ。だからこそ、新々刀の祖たる水心子正秀の物語を受け継ぐ存在として、威厳のある態度をとらなくてはと心に決めていたというのに。
「ああ。こちらの方が都合が良いらしいからね。」
青年は僕の葛藤など気にする素振りもなく、そう口にした。僕はそうか、と頷く。
やはり彼は僕達とは違う立場としてここにいるのだろうと察する半面、それ以上踏み込んでよいものか分からず口を噤む。しん、と互いに黙り込む。しかし、それをすぐに打ち破ったのは青年の方だった。
「ねぇ、君は読書が好きなの?」
「うぇ?」
想定外の質問にぽかんと口を開く。けれど、真剣な眼差しに真摯に答えなくてはならないなと感じ、暫し考えた後、深く頷いた。
「…そうだな。何かに没頭するのは楽しいし、新しい知識を身に着けるのは為になる。だから僕は好きだよ。」
「あはは、そうなんだ。本当に好きなんだね。うーん、持て余した時間を潰すのに丁度いいかなと思うのだけれど、僕どうしても最後まで読み切れなくてね…」
それは本の内容に興味が沸かないという意味なのか───少なからず先ほど眺めていた書物には全く興味がないようだった───、一度に読み切らなくてはならない理由があるという意味なのか、それによって掛ける言葉が変わってくる。まずは根本的なところを確認をしようと質問を投げかける。
「清麿は普段どういった本を読むんだ?」
そう尋ねれば清麿は何故か鳩が豆鉄砲を食ったように瞳を見開く。そして、考えるように顎に手を添えて俯いた。
「あまり考えたことがなかったな…。普段は何となく目に付いた背表紙を抜き取って開く、みたいな感じかな?」
「わかった、少し待っていてくれ」
こだわりがないのであれば、もっと手軽に読める内容と時間をかけずに読み切れるような短編のものが良いかもしれない。そう考えて、他の陳列よりも数段低く設置された棚が立ち並ぶ区画へと向かう。思い浮かんだタイトルを選び出し、片っ端から数冊を抜きだす。
どさりと音をたてて、両手に抱えきれるだけの本を清麿の目の前へと置く。困惑したように見開かれた躑躅色の瞳が僕を見つめる。
「これは平成の時代には映像化もされている…らしい、長く親しまれてきた冒険譚だ。読みやすい文体と始めは頼りなかった主人公が仲間との交流の中で頼もしく成長していく様に引き込まれるぞ。それでこっちは多種多様な怪談を集めた短編集。…まあその、付喪神である僕が言うのもおかしな話だが、読んでいて思わずぞくりとしてしまうような実体験であったり、思わず涙が滲んでしまうような感動的なお話もあったりする。それで次に───」
一冊一冊、あらすじとお勧めしたい点を解説して行く。清麿は一つ一つ、頷きと相槌を打ちながら耳を傾けてくれていた。
夢中で全てを話し終えたところで、あまりにも熱中して話してしまったことに気が付き、カッと顔が熱くなる。周囲を見渡せば、僕の普段見せない勢いのある言動に少しのどよめきが起こっている。ますます顔が熱くなるが、それを誤魔化すように咳ばらいを一つ。
「…んんっ。どれも私のお墨付きだ。色々な内容を選んでみたから、一つくらい清麿の興味が沸くものがあれば良いのだが。」
ちらりと視線を向けた先、清麿が悪い感情抱いていなさそうな様子でいるのを確認し、内心安堵する。それから、少しの躊躇いを孕みながら口を開いた。
「清麿、もし次会う時、気に入ったものがあれば僕に教えてほしい」
これは残酷な約束だろうか。もし、ここで清麿が首を横に振ったとしても、それは仕方がないことだと思う。せめて、僕のこの行動が少しでも清麿の力に慣れていたら良いと願うばかりだ。
「ありがとう」
清麿は頷かなかった。けれど、拒絶を示すこともしない。ただ清麿はそう言って柔らかく微笑んだ。
それは突然の出来事だった。いつものように規律正しく並んで講義を受けていた時の事、僕の前の席に座っていた少年の体が砕けた。その異様な状況に教室は混乱の渦に飲まれる。そんな中、特別驚いた様子もなく冷静な態度の政府職員は動揺する僕達を一喝し静止させると、少年の欠片を拾いあげる。それから僕達に動かぬよう指示し、部屋を後にした。
その後、何事もなかったかのように教室へと戻って来た職員は、僕達は通常顕現された刀剣男士よりも不安定な存在だ、と説明した。今こうして生活させているのも、肉体を定着させるための期間であり、今回のように肉体が安定しきれずに崩れてしまうこともあるらしい。皆息を飲んで職員の発する一言一句を聞き逃すまいと耳を傾ける。戦闘訓練による肉体の耐久性強化を図り、正史とされている歴史を知ることで刀剣男士としての存在意義を確かなものにする。回りくどい手法ながらも各本丸の戦力拡大のため、最前線に立っても遜色ない刀剣男士を生み出せるのならば必要にある手間なのだそうだ。それは素直に頷けるような理屈と撤去された。
放課後、僕は気力が沸かず、書斎───図書室には向かわなかった。
校舎から与えれらた自室へと繋がる渡り廊下の途中、中央を塞ぐようにして異様なものが立ちふさがっていた。禍々しさを放つ姿に、一目でこれは敵だと本能が告げる。だというのに、本体を握る手が震える。だってあれは、今まで共に過ごしてきた少年じゃないか。
「……っ⁉」
僕の足元に少年の首が落ちている。困惑する視線の端で黒い戦装束を翻る。それが清麿だと認識できた頃にはもう彼は立ち去ろうとしていて、ほんの一瞬、動けずにいる僕を一瞥したけれど、その瞳には僕のことなんて映していないようだった。
扉を開くのが怖いと感じるのは初めてかもしれない。毎日図書室に来る義務はないし、僕がこのまま自室に戻ろうと誰も咎められはしないのは分かっている。それでも律儀にここまで来てしまったのは、暗に確かめたかったのだと思う。僕の中で、昨日冷ややかな視線を向けた彼と、穏やかな表情で僕の話に耳を傾けていた彼とが繋がらなかったから。それは直接確かめるのが一番だと思ったからだ。今日も彼がここへ来ているという保証はない。
(そもそもが、会えたとしても僕のことを覚えていないか…)
そんなことを考えてひとり悶々と唸っていると、後ろがつかえてしまっていることに気が付いた。僕は後ろへ謝罪の意を込めて頭を下げると、急かされるような気持ちで扉を押した。その先に広がる慣れ親しんだ空気に少しばかり緊張がほぐれる。やっぱり僕はこの空間が好きなんだな、と逃避気味に感じた。しかし、見渡せる範囲に彼の姿はなく、当然いつもの座席には誰もいない。いや、元々はこれが当たり前だったのだ。この座席が僕の所定の位置だと周囲に認識されるようになってからは自然と進んでそこへ座る者もいなかった。だからこそ、僕がここに来なければ空席になっていて当然だった。僕は何を勘違いしていたのだろう。彼と会ったのだって片手で数えられる程度。何故いるのが当たり前だと思っていたのだろう。そう思った途端、すっと体温が下がっていくような心地がした。
椅子を引いて鞄を置き、ノートと筆入れを取り出す。当初の目的が果たせないのであれば、平常のように過ごせばいいだけだ。さっさと課題を済ませてしまおう。静寂の中にある静かな呼吸音と、微かに聞こえる紙を捲る音。ここは与えられた自室に籠っている時よりも集中ができる場所なのだから。
「………」
カチカチと遠くで時計が秒針を刻む。誰かが小さく咳ばらいをする。そんな雑音すらやけに耳についてしまい、全く集中ができない。おかしいな、と焦りのあまり額に冷や汗が滲む。このまま続けても状況は好転しないだろうと判断し、気分転換のために席を立つ。ふらりと本棚を見回す。始めこそ古刀について、新刀について、と刀に関する書物を読み漁っていたが、得られる知識に限界を感じてからはあらゆる分野を手に取るようになった。それは講義で教授される内容よりも更に詳細を記した歴史書であったり、あるいは江戸が東京に変わった後の文化に関する文献であったり、それこそあの日清麿に勧めたような児童書まで。
ふらりふらりと足を進めていると、他の陳列よりも数段低く設置された棚が目に入る。いつも間にか児童書の区画へと来ていたようだ。果たして清麿はどれか読んでくれただろうか。全て忘れてしまっているかもしれないが、少しでも彼の心に何かを残せていれば良いなと思う。
「…っ す、すまない、大丈夫か?」
脛で何かを蹴とばしてしまった感触がして、慌てて謝罪の言葉を口にする。見れば何者かが床に座り込んでいたようで、その人物はのそりと悠然とした動作で立ち上がる。その際に揺れる菖蒲色が目に入り、僕ははっと息を飲んだ。
「僕の方こそごめんね。つい、没頭すると周りが見えなくなってしまうんだ。」
良くない癖だね、と自嘲気味に笑う躑躅色の瞳と視線が交わる。呆然と見つめ続ける僕に、清磨は不思議そうに首を傾げた。
「僕の顔に何か付いている?」
僕は首をぶんぶんと横に振る。もちろんゴミが付いていたなんてことはなく、彼の顔に可笑しな要素があったわけでもない。今日の清麿は一昨日会った時と同様に僕達と同じ服装をしており、一見するとここで生活する者達に紛れてしまう。お陰で不意を突かれた気分だ。
「…この本、とても面白かったのだけれど、君はおすすめって何かある?」
衝撃的な問いかけに、思わず肩に力が入る。清麿が見せてきた表紙は一昨日に僕がおすすめした作品で、それを訪ねてきたという点に、僅かな期待が生まれる。僕はあえて探りを入れるようにこう問い返した。
「───何故、それを私に聞くんだ?」
清麿は不思議そうに首を傾げながら思案した後、それもそうだね、とひとり頷いた。
「どうして君に尋ねようと思ったのか、自分でもよく分からないな…。でも、数日前の僕はとてもこの本を大切にしていたようだったから、もしかして君に関係があるのかな?」
僕はそれを頷くことも否定することも出来なかった。その代わりに、目の前にある一冊の本を抜き出して清磨へと手渡す。清麿は僕の不可解ともとれる行動について言及することなく、大人しくそれを受け取った。
「これもおすすめだから、気が向いたら読んでみてほしい。同じ作者の作品で、少し作品の雰囲気が違うから好みは別れるかもしれないけど、僕はとても好きなんだ。」
それでは失礼する、と踵を返す。高揚しているようで落胆していて、同時に奥底から何かが溢れてくるような奇妙な感覚だ。
「あの、君の名前は…」
僕の腕を掴んで引き留める。僕は振り向かず視線を俯けたまま、そっと口を開いた。
「次、また会えたら、その時は感想を聞かせてほしい」
そう告げて、僕は清麿の手を払った。清磨もそれ以上僕を引き留めることはなく、ただ黙って離れていく僕の背を見送っていた