季語シリーズ③ 大暑 夏という季節はいつ始まるのだろうか。
五月、不似合いな真夏日が来たと思ったら次の日には冷え込んで、と思ったらまた暑い日がやってきて、そうこうするうちに梅雨入りしている。五月初めも初夏と言うけれど、じめじめした梅雨冷えの時期はどうも夏とは思えない。
事務所のアニバーサリーと期末試験が終わって、八月になった。今日は久しぶりに九郎先生と会う。遅くなったけれど、この夏の予定を立てようと話していた。
待ち合わせの喫茶店に入ると、窓際の席に九郎先生はいた。彼の方も僕を見つけて小さく会釈した。
「お待たせしましたー」
「いえ、今来たばかりですよ。外は暑かったでしょう」
「いよいよ夏本番って感じだねー」
窓の外を見ると、ずんぐりむっくり膨らんだ入道雲が空に青と白のコントラストを作っていた。ギラギラと照りつける太陽のせいか、建物や街路樹がいつもより色濃く見える。
「七月が終わって、やっと一息つけるよー」
「北村さんは私以上に大変だったでしょう。お疲れさまです」
「と言っても、八月は八月で忙しいんだけどねー。アイドル業、休みの日こそお仕事です」
「ええ、ありがたいことです。ですが、忙しいなりにも楽しみたいです。その……私たちにとって初めての夏、ですから」
九郎先生はそっと僕の手に触れた。火照った僕のものと違って、少し冷たくてひんやりしていた。
「楽しいこと、たくさんしましょうね」
そう言ってあんまりにも綺麗に笑うものだから、ずっとこのまま、夏本番なんてもっと遅く来ればいいのにと思った。