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    なふたはし

    モバエム時空です。「/(スラッシュ)」は左右なしという意味です。

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    なふたはし

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    くろ/そら 熱帯魚

    季語シリーズ⑨ 熱帯魚 赤や黄色、水色に橙。鮮やかな色彩の魚たちがすいすいと泳いでいた。水槽に設置されたライトが、彼らをより艶やかに照らす。解説パネルを見れば、熱帯地方に生息しています、と書いてあった。
    「九郎先生知ってるー? 熱帯魚って夏の季語なんだよー」
    「はあ……」
     夏という季節と、目の前を泳ぐ蛍光色の魚たちがうまく結びつかなくて、私は曖昧な相槌を打った。
    「水族館でしか見ないから、夏って言われてもピンと来ないよねー」
     北村さんはじっと水槽を覗き込む。
     突然、水槽のガラスが音もなく割れた。
     縦に走った亀裂から、水が溢れ出す。割れたガラスの間から、魚たちもこちらへ泳いでくる。しかしどういったわけか、水槽の中の水は一向に減らない。
     北村さんは動じない。私も不思議と落ち着いていた。
     水は無尽蔵に溢れてきて、くるぶし、膝頭、胸と水かさは増していく一方だ。やがて私たちは完全に水中に埋まり、水槽の中とこちら側との区別がつかなくなった。
     北村さんの髪が、水草のようにゆらゆらと揺れる。水中は温かい。熱帯地方を再現しているからだろうか。
     黄色い蛍光色の熱帯魚が、私たちの間をつうと横切った。過ぎていくのを見送ったら、北村さんと目が合った。
     じゃあ、行こっかー。
     水中では音は伝わらないはずなのに、はっきりと北村さんの声が聞こえた。
     「どこへ?」と聞き返したかったけれど、声の出し方がわからなかったので、問いかける代わりに私は彼の手を掴んだ。
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