季語シリーズ⑳ 祇園会 夏の京都はかくも暑いものかと、私は空を見上げて思った。盆地だから熱がこもりやすいとは聞いていたものの、その熱気は想像以上だった。ただ立っているだけで参ってしまう。加えて、祇園祭のために人々も密集していて、京の町を一層厳しくしていた。幼い頃に祖父に連れられて来たことはあったが、当時は物珍しさでいっぱいで、暑さのことなんて記憶に残っていなかった。
それから十年余りが経ち、祭りのリポーターとして私たち彩とLegendersが選ばれた。遠路はるばる京都へ来たわけだが、さっそくアクシデントが発生していた。自由時間に揃って観光をしようとしていたところ、運悪く団体旅行客と鉢合わせ、プロデューサーさんたちとはぐれてしまったのだ。
「見事にはぐれちゃったねー」
同じように置いて行かれてしまった北村さんは、開き直って他人事のようにしている。とりあえず連絡を取ってみると言うので、私は彼に任せることにした。
立ち止まるため道の端に退避しようとしても、人で溢れた京都には空いた場所なんて無い。とどまろうとすれば、右から左から、移動しようとする人がやって来る。
こんちきちん、こんちきちん、と祇園囃子がする。人混みの非日常と共に、危機感を薄れさせていく。私たちは流されるようにして、道外れへ出た。元居た場所からはずいぶん遠ざかってしまっていた。
「さて、はぐれちゃったわけだけど、これからどうするー?」
北村さんは先ほどと同じ内容の台詞を吐く。しかし今度は打って変わって、いたずらっぽく笑いながら言う。
プロデューサーさんたちへ連絡を入れるのでは、と心の中では思ったけれど、口にはしなかった。今は自由時間なのだから、誰とどこへ行くのも自由ではないか。全員で観光するのも、二手に分かれて観光するのも同じことではないか。この人混みの中、わざわざ合流しようとするのは一苦労ではないか。
問いかけへの返答を待つ北村さんを前に、私はそうやってあれこれと言い訳の算段をしていた。彼も似たような考えを巡らせてはいまいかと期待しながら。