貞53 高校生パロ(高1高2)それは、僕の気持ちとは裏腹にとても良く晴れた日に突然やってきた。
ぼんやりと桜を眺めていた僕は自分の幻聴かとさえ思ったのだ。でもそれは確実に空気を震わせる、静かなそして力強い音だった。
ー僕と付き合ってください!
*prologue
「はあ…」
今日何度目か分からない溜息を吐く。周りにいる人々は皆期待や希望に胸を踊らせているのに。
それもそのはず、今日は高校の入学式だった。
僕の溜息の原因といえばやっぱり父さんの事だった。
僕がまだ幼かった頃、母さんを亡くして以来父さんはずっと僕に関わることを避けているみたいだった。
母さんが生きていた頃、父さんがどのような人物だったのかは僕も記憶が浅く分からない。知ろうとしても僕が物心付いた時には家には母さんの写真すら無く知る術も無かった。だからこれは僕が中学の頃お世話になった先生から聞いた話だから確証はないけれど。こんな僕でも、僕が不自由の無いように育ててくれた命の恩人のような先生の言うことであるからきっとそうなのだろうと思っていた。
父さんが僕を嫌っているのは今に始まった話じゃない。
だから今日、入学式に父さんが来れないと知っても驚かなかったし、悲しくも無い筈だった。けれども、保護者と楽しそうに話している同い年の子を見て自分の場合を考えてしまうのは致し方無いことだった。
今年はタイミング良く桜も満開で式を迎えられて嬉しいと話す声が耳に入る。
見上げれば空を覆い隠してしまうほどの視界いっぱいに広がる桜の木が目に入った。
ーあ、と思った。僕はそれに気付かないほど父さんのことばかり考えていたのだと気づいた。
入学式は自分の考えを巡らせているうちに幕を閉じた。考えれば考える程気持ちは重くなっていった。皆との温度差を感じて、1人だけ取り残されている感覚がしてままならなかった。
そうして早くこの空気から逃れようと正門に向かって足を動かした、ちょうどその時だった。
「ねえ、君」
後ろから誰かを呼ぶ声が聞こえた。僕ではないと思ってそのまま歩くことをやめなかった。
「ちょっと、ねえ、君!」
後ろから足音が近づいてくると思ったのも束の間、パシ、と音がしたような気がした。
腕を掴まれていることに気づいて、歩こうとするにも進めず仕方なく振り返った。
「あは、ようやくこっち見てくれた」
見ると上級生と思われる人物が立っていた。
息がとまった。
そのどことなく人間離れしたような見た目と、口角だけを上げ本心から笑っているのか分からないような表情で僕を真っ直ぐ見つめる赤い目を見たせいでは少なくとも無いだろう。其の時僕は自分のことに精一杯で相手を気にかける余裕なんて無かったから。
息がとまったと言うよりかは、硬直した、に近いかもしれない。
自分が無意識のうちに何かしてしまったのだろうか?という不安でいっぱいだった。
何かしてしまったのならば、直ぐに謝らなければと思い声を発した。
「あ、の」
思わず声が震えた。続く言葉は彼に遮られ音にならなかった。
「ちょっと、こっち来て!!」
いきなり走り出した少年に腕を捕まれたまま、解こうにも解けずついて行くほか無かった。
「はぁ…はぁ…」
思いの外早い彼の足についていくのに必死で息がきれた。着いた場所は、人目につかなそうな、体育館や部室の裏のようなところだった。学校の敷地内のことをほとんど知らない僕はどこかすら分からなくて正直言って怖かった。
ここで暴力なんて振るわれたら誰も助けに来てくれないだろうな、なんて思ったくらいだ。
自分の身を案じていた僕に降り注いだ言葉は桜の花とともに舞い落ちていった。
…え、今なんて?
僕は耳を疑った。視界の端に映る桜と共に流れた音は擬音なんかではなく確かに言葉だった。
正面にいる彼の口から発せられた、僕に向けての。
「僕と付き合ってください!」
思わず彼の方を見ると頭を深く下げて右手を差し出していた。
僕はこの状況を上手く咀嚼出来なかった。頭がどうしようとも追いつかないのだ。
困惑していると赤い目と目があった。
「お願い!! 付き合ってください!」
逃げ場があって無いようなものだった。その目には僕が確実に写っていたから。
つきあう…
その4文字を自分の持ちうる常識で必死に咀嚼した。僕の常識はなんの役にも立たなかったが、そのまま自己の解釈で返す外無かった。
「僕、男、なん…ですけど…」
「うん、分かってるよ」
「え??いや、あの…」
訳が分からなくて相手の顔をよく見ると、顔立ちと声からして
あ、この先輩モテそうだなって思った。
「君が男とか関係ないよ、僕は君だから好きなんだ。だから…付き合ってください!!」
本日3度目の言葉。今日初めて言われた言葉をこんなに1日で聞くことがこれから先あるのだろうかというくらいだ。
それ、先輩なら女の子に言ったら確実にOKもらえますよ。…多分。
なんて考える余裕が出てきて、面倒臭くなって思わず
「い…」
いですよなんて言いかけた。
いや待て違う僕は女の子じゃないと思い直して踏みとどまった。流石に見ず知らずの相手と付き合うなんて無理な話だ。
「いやでも、僕、あなたのこと何も知らないですし…」
そもそもきっと彼も僕のことなんか知らない筈だ。僕は新入生だし、以前あったことがあるならこんな印象的な見た目の人、忘れる筈が無いのだから。
案の定これは彼にとっても納得のいく返事だったらしくて、目を丸くさせた後、
「確かに…」
なんて呟き俯いて考えていた。
え、なんで??言われるまでそれに気づかなかったの?
なんだか不思議な人だな、と僕にとって彼に対する第一印象はそれだった。
彼が考えるのをやめた。何か彼なりに答えを出したらしい。
「うん、でも付き合ってるうちに嫌でも分かると思うし…付き合おう?」
「は?!」
呆れて思わず声に出てしまった。一応先輩だろうし失礼だったかなと思って思わず口を抑えた。
「あ、いや、すみません…」
何故か先輩は嬉しそうにしていた。
「あは、いやいいよ。」
君ってほんと変わらないよね。
と聞こえた気がしたが僕の気のせいだったかもしれない。
楽しそうに笑っている先輩の顔を何故かずっと眺めていたいような気がして僕は目を離せなかった。
「ね、手出して」
ひとしきり笑い終わった先輩が言う。
「え、あ、はい」
何か渡されるのかなと思い素直に手を出した。
「はい」
先輩が僕の手を握る。手と手の間には何か物がある訳ではなくただ温かな皮膚の感覚があるだけ。意外にも1まわりほど彼の手のほうが大きくて、あ、そうか年上なんだよなと思い直した。
というかこれじゃ、只の握手だけれど…。よく分からない状況に戸惑っていた。
「はいじゃあ、これからよろしくね」
そう先輩は笑顔で告げて手を離す。
「え!え!?ちょ、ちょっと待ってください!」
まだ付き合うなんて一言も言ってないのに握手によって取り付けられた謎の約束に困惑せざるを得なかった。必死でそれを取り消そうとするが笑顔で「ん?そうだね」と言うだけでちゃんと聞こうとしてくれない。
どうやら先輩は僕に断る術を与えてくれないらしい。
「じゃ、また明日ね!!」
そう言って駆けていった。まるで友達になる約束をしたかのように平然と。
情報が飽和して疲れていた僕は追いかける気にもならず、この約束はどうせ彼が罰ゲームでやらされたお遊びか何かなのだろうと思って本気にもしなかった。「なんだったんだ…」
僕の新入生1日目は桜のように過ぎていった。それも強烈なインパクトを残して。
追記:設定
両片想いとか、片想いとか勘違いから無事結ばれるの好きすぎる。n番煎じかもしれないが許して…何度見てもおいしいからこのシチュ。
起 今回の部分
承 3が自分の気持ちが分からない状態でいるため5が3は自分と無理に付き合ってくれてるのだと思い込む→遂に、もうつらい、別れようと言う5→でも3は一緒にいるのが楽しいと感じ始めてきて5の隣を居心地がよく思えるようになっているため、どんな関係でもいいから一緒にいたいと5を引き止める→ねじれて肉体関係(セフレ的な?)
転 そのねじれた関係のなかで次第に3が自分の気持ちを自覚→n回目のhで初めて5に好きだよと言う
結 💜💙