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    遅くなってしまった結月さんへの誕生日プレゼントになります。(本当に遅い)
    「道に振り向いてもらおうと必死な道にベタ惚れ最優と、別に現時点で既にベタ惚れな道の甘い晴道」でしたが、甘い晴道が書けなくて謎の仕上がりになりました。
    お誕生日おめでとうございます!という気持ちだけはふんだんに込めたので許されたいです。

     安倍晴明という男は、恋に落ちるという表現が理解できない男だった。
     それは単純に恋をした事がないという事でもあり、恋をしたいとも思った事がなかったのだ。自分と他人の感覚が違うと気付いてはいたが、問題ないと高校三年生になっても恋人も作らず過ごしていたし、恋に身を焦がす人間を何処か物語を見ている感覚で眺めていた。興味本位で恋をしてみたいと思った事もあったが次の日にはコロリと忘れる程度の願望だった。
     そんな晴明は友人に「恋はどうするのか。」と興味本位で聞くのは至極当然の事だったし、恋に浮かされた友人は「まさしく、落ちるという表現がピッタリだ!」と答えるのも至極当然だった。

    「転校生の蘆屋道満だ。」
     担任の声は聞こえたが、晴明は全く転校生を見ていなかった。見た処で面白味も何もないからだ。せいぜい思った事は、この時期に転校してくるなんて大変だな程度だった。
     晴明が転校生の道満を意識したのは本がきっかけだった。高校にしては無駄に広い図書室と変わった本を積極的に仕入れる司書の影響で、一部の人間にのみ大盛況な図書室を晴明は気に入っていた。この図書室の為に高校を選んだと言っても差し支えがないほどだった。
     一回借りれば内容もタイトルも全て覚えている晴明が新しい本を探している時に、自分が借りた事のある本が借りられているのに気付いた。かなり専門的な本やマニアックな本が多い為、借りる人間は自分以外いないと思っていた晴明は少しだけ気になった。一週間もすると元の位置にあるのを見て、まぁ読まなかったのだろうなと思った。普通の人間が分厚く難解な本を読むとは思わなかったからだ。何回か同じ事が起こってから、初めて晴明が借りたい本が先に借りられていた。名前を聞けば「蘆屋道満」と言われ、思いついた様に以前借りた本を開いて、同じ名前がある事を確認した。
     それから晴明は「蘆屋道満」が気になりだした。他の同級生より背が高く筋肉質だったり、勉強も運動も自分の次に優秀だったり、とても綺麗な顔をしていたり、気になって仕方がない晴明は立ち入り禁止の屋上で昼御飯を広げる友人に相談してみたりもした。
    「蘆屋道満について知ってますか。」
    「あぁ…、なんか言われたのか?」
     露骨に顔を顰める友人に何故そんな顔をするのかと晴明は首を傾げた。
    「?いえ、なにも。何故ですが?」
    「知らないのか?お前の事、滅茶苦茶意識してるだろ。」
     その言葉を聞いた時、晴明は胸を撃ち抜かれた感覚に陥った。途端に、ドッ!と心臓が力強く打ち出すのが解った。じわじわと体中が熱くなるのを感じた晴明は、友人が馬鹿みたいに口を開けて目を見開いてるのを見た。

     さて、それで晴明が恋を自覚したかというと、そうでもなかった。なんせ「恋は落ちる物」と教わっていたから「落ちてません。撃ち抜かれました。」と他人が聞けば屁理屈の様な理論で晴明が自覚を出来てなかった。それでも「蘆屋道満が自分を意識している」という言葉に浮足立っていた。
     晴明に悪意を向ける人間も好意を向ける人間もとても解りやすい事が多いかった。しかし晴明から見た道満は、そのどちらでもなかった。その為、自分に興味がないのかと思っていた晴明はとても良い気分だった。何故か晴明には自信があった。自分が道満に好意を抱いている様に、道満も自分に密かに好意を抱いているのだという自信があったのだ。鼻歌まじりで高鳴る心臓をいなしながら道満に初めて声をかけた。
    「なにか御用ですか。」
     突き放す冷たい声と態度と何よりも初めて真っ直ぐ見た眼が完全な拒絶を表していた。晴明は珍しく混乱した。自分に悪意を向ける人間でも、自分が声をかければ喜ぶ人間ばかりだった。ここまで解りやすい拒絶も自分が好んだ人間からの拒絶も晴明にとっては初めてだった。
     一気に冷えていく体と縮こまる心臓を一切悟らせない様にと晴明は微笑んだ。道満には、かっこ悪い処は見せたくないと強く思ったからだ。誰かと仲良くする方法を晴明は思い浮かばなかった。思い浮かぶのは何時も読んでいる本の内容ばかりだった。「だから」なのか「だけど」なのか晴明にも解らないまま口をついたのは晴明自身も驚く内容だった。
    「賭けをしませんか。次のテストで点数が良い方が負けた方を好きにできると。」
     一体全体なにをどうすれば、そんなバカげた内容の賭けが出来るのかと内心頭を抱えた晴明を胡散臭そうに見た道満が「いいでしょう。」と受けて立つのだから家に帰った晴明は「いや、そこは断る処でしょう!」と頭を抱えるのだった。この時、晴明は割と本気で「私が見てないと危なっかしいぞ。あの子。」思っていた。
     さて、結果は勿論、晴明が勝った。なにをどうしようかと悩む晴明を前に悔しそうな顔をする道満が目に入る。晴明が一番な事をちっとも喜ばないし、むしろ睨み付けてくる道満の顔を見ながら、他の顔が見たいと晴明は思った。
     悩んだ結果、お気に入りの喫茶店に道満を連れて行くことにした。そこは本当に誰にも教えていない穴場で、静かな処もメニューの内容も味も晴明が気に入っている場所だった。
     おっかなびっくり入る道満が落ち着かない様子で座るのを見てから道満にとオススメのパンケーキを注文した。勝手に注文するなと怒った道満だったが出てきたパンケーキのふんわりとしているのに驚くほどの分厚さに黒曜石を埋め込んだ様な瞳をキラキラと輝かせた。初めて食べるのかおっかなびっくりナイフを入れて、生クリームとベリーをたっぷりと乗せてから口に入れると思わずという感じでニッコリと笑った。
     その様子を晴明は心臓を押さえながら見ていた。脳内が言葉にならない何かで埋め尽くされるという初めて味わう感覚に戸惑った晴明は何とか脳内で処理をしようと躍起になっていた。どうにか言葉になったのは「可愛い」だけで、あとは何一つ言葉にならなかったし、痛い程の心臓の鼓動も熱い体も何もかも思い通りにならなかった。
     二口目を食べようとした道満が晴明と一緒だという事を思い出したのか、慌てて顔を引き締めてから晴明を見た。っと、ぽかんと口を開けて固まってしまった。不思議に思ってそのまま見ていた晴明は徐々に赤くなる道満に、また脳内がバグを起こすのを感じた。

     家に帰ってから晴明はありとあらゆる本の内容を思い出した。なんだったら電子書籍にも手を出して、図書館にだって入り浸って、ようやく思い至った。
     自分は道満に恋をしているらしい、と。
     遅すぎる自覚に友人は深いため息を吐くし、晴明自身も悪手を打ちまくってしまったと反省をした。好いていない、それどころか嫌ってる相手から勝負を持ち掛けられ、負かされ、連れまわされ、しかも良かれと思って「払う」という道満に「これは賭けの対価ですよ。」と黙らせて奢ったのだ。施しを受けたと、きっと道満は打ちひしがれただろうと晴明は頭を抱えた。
     修復不可能な事態と深刻に考えた晴明は、ついに打開策を思い浮かんだ。筋肉の超回復理論。確かこれを元に、修復不可能なまでに関係を最悪にすれば、その後に関係を回復した際に今まで以上に関係が良くなるという理論を展開している本があったはずだ。ならばまず関係を最悪にする為に、賭けを持続しよう!晴明は謎の思考回路を経て、道満との賭けを持続していった。


     蘆屋道満は困惑していた。賭けを吹っ掛けてくる、いけ好かない男の晴明が回を重ねる毎に明らかにデートコースをセッティングしてくるのも毎回、真っ赤な顔をして道満を見ては、胸を押さえているのも、特に何も話しかけてこないのも最初は戸惑っていた。それでも道満だって、これがなんとなく賭けという口実を使っただけのデートだと解るし、晴明が自分を本気で好きな事にだって気付いた。最近では真っ赤になった晴明が可愛いとさえ思えている。友人に確認しても「べた惚れじゃん。」と言われるし、ちょっとした仕草や少し気になって見ていた店に連れて来られた時に「愛されてる」とさえ感じる。
     だというのに一向に告白をされない。
     可笑しい。何かが可笑しいと道満は困惑していた。困惑していたがデートには勿論来ていた。今日は英語の小テストで負けた賭けの清算だ。点数は同じだがより為になる使いまわしや雑学を書き、先生に追加点を貰う方式をとっている二人は一点差で今回も晴明の勝ちだった。
     今日はクレープの上にケーキもアイスもプリンも乗せるという暴挙に出た店に来ていた。一般人には大きすぎるソレは道満の手にはぴったりと収まっており、しかも盛れるだけ盛った為、ケーキもアイスも二個も乗っている。道満は期待に胸を膨らませていた。これぐらいならペロリと食べれる自信があったが、思ったよりも暑いせいかアイスが溶ける速度が速かった。少し悩んだ道満は、勿体ないからという理由で晴明に声をかけることにした。
    「一緒に食べてくだされ。」

     晴明は驚きすぎて何を言われたか最初は解らなかった。次いで、じわじわと内容を理解した晴明は道満が持っているクレープに刺さっているスプーンを手に取った。
     これは、超回復理論が効いたのでは!晴明は小躍りをしたい気分になった。これまで、道満が自分に話しかけてきた事は一度もなかった。だというのに今日はいきなり「一緒に食べたい❤」まで言い出したのだ。これが超回復理論でなければ何だというのだ。晴明は道満にかっこ悪い処を見せる訳にはいかないとニヤケそうになる顔を必死で抑え込んだ。
     晴明は、スプーンを使わずに食べる道満を見ながら、気付かれない様に道満の食べた端を少し掬っていく。あまり好んで食べない甘味を人生で一番早い速度で食べては、人生で一番美味しい気がすると考えていた。必死でアイスを舐めてはたまにケーキを齧る道満にエロいと可愛いが交互に襲ってくるのを晴明は感じた。素数を考えていなければ危ない処でした。そんな他所事を考えていたせいか、道満が少し口を尖らせて晴明を見てきた。
    「アイスを食べてくだされ!」
     晴明は頭が沸騰するかと思った。具体的には、道満が嘗め回した唾液たっぷり……ではないが気持ちとしては唾液たっぷりなアイスを自分が食べる。これはつまり濃厚な接吻という物では?なるべくポーカーフェイスでアイスを掬った晴明を満足そうに見た道満に、晴明の心臓はまた激しく主張をしだす。食べたアイスの味が全く解らない程度には、晴明は動揺していた。と同時に一線を越えた気分で一杯だった。これは、もう、最悪を脱出して、友人関係といっても過言ではないのでは?晴明は心臓を押さえながら口の中の物を飲み込んだ。


     クレープデートからしばらくして、もうすぐ夏休みに入るという時に道満は晴明に提案をされた。曰く「夏休みの間は賭けが出来ないので、お互いに暇な日は会って勝負をしましょう。」何時が暇かと聞かれた道満は帰省の予定も全て投げ捨てて「夏休みは最初から最後まで暇です。」と答えていた。これでは毎日逢いたいと言ったも同然だと恥じて赤くなった道満を知ってか知らずか晴明は「じゃあ毎日9時に迎えに行きます。」と言ってきた。
     冗談だと思っていた道満は本当に毎日9時に迎えに来る晴明にいっそ呆れていた。ここまでして、本当になんでこの男は告白をしてこないのだと。自分から告白するのも癪に障ると考えた道満は、賭けに勝った男が聞いてくる「好みのタイプ」という質問に「毎日でもデートをしてくれるお人がいいですね。」と答えた。


     晴明は由々しき事態だと頭を抱えた。夏休みでも道満と毎日一緒にいられる上に道満の好みの人間や好きな食べ物を聞ける一石二鳥な素晴らしいアイデアを思い付いて2週間、道満の好みの人間が「毎日でもデートをする人」だと判明した。つまり道満に恋人が出来たら毎日デートをするから私と会えなくなるという事だ。これは早急に道満に好かれなければと晴明は考えた。しかし、どうやって道満に好かれればいいのか解らなかった晴明は考えた。
     1週間ほど考えてから思いついた。自分がデートに誘えば、毎日デートをする人間になる。つまり自分が好みのタイプになるわけだ。毎日デートをすれば道満もきっと自分を好きになるはずだと晴明は急いで道満の家へと向かった。


    「道満。私と毎日デートをしましょう。」
     道満はこの言葉に困惑していた。今までのはデートでは無かったのだろうか。では何をもってしてデートというのだろうか。困惑しながら道満は晴明に尋ねる事にした。
    「今までのは、デートでは無かったのですか?」
     聞いてから、これは間違ってたら大変恥ずかしい事を聞いてしまったと思い、羞恥で顔を真っ赤にした。俯いた顔を上げて晴明を伺えば、晴明も真っ赤な顔をしながら「で、デート……と、認識してくれてましたか?」と聞いてきた。これは自分が間違っていたのだと顔を手で覆った道満の顔を手ごと包んだ晴明は「いえ、言い方が悪かったです。」と居住まいを正した。
    「デートでした。これからも、毎日、私とデートしてください。」
     顔を真っ赤にした、いけすかない男は相も変わらず、いけすかなかい男だと道満は思った。自分にこんな言葉を言わせるのだ。本当に、いけすかないと羞恥で浮かんだ涙ごしに男を睨み付けた。
    「もっと他に言う事があるでしょう!」
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    「道に振り向いてもらおうと必死な道にベタ惚れ最優と、別に現時点で既にベタ惚れな道の甘い晴道」でしたが、甘い晴道が書けなくて謎の仕上がりになりました。
    お誕生日おめでとうございます!という気持ちだけはふんだんに込めたので許されたいです。
     安倍晴明という男は、恋に落ちるという表現が理解できない男だった。
     それは単純に恋をした事がないという事でもあり、恋をしたいとも思った事がなかったのだ。自分と他人の感覚が違うと気付いてはいたが、問題ないと高校三年生になっても恋人も作らず過ごしていたし、恋に身を焦がす人間を何処か物語を見ている感覚で眺めていた。興味本位で恋をしてみたいと思った事もあったが次の日にはコロリと忘れる程度の願望だった。
     そんな晴明は友人に「恋はどうするのか。」と興味本位で聞くのは至極当然の事だったし、恋に浮かされた友人は「まさしく、落ちるという表現がピッタリだ!」と答えるのも至極当然だった。

    「転校生の蘆屋道満だ。」
     担任の声は聞こえたが、晴明は全く転校生を見ていなかった。見た処で面白味も何もないからだ。せいぜい思った事は、この時期に転校してくるなんて大変だな程度だった。
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