ULTRA TORNADO戴天は会談の場であった商業地区のビルを出た途端目の前に広がる横殴りの雨に閉口する。虹顔市に台風が近づいてきていると、朝のニュースで言っていたことを思い出す。ちょうど連絡がきてこの後の商談はキャンセルになった。そもそも相手が会社から移動できなくなったという。
溜息をついて、社用車を呼ぼうにも、道路状況から絶望的。雨はこのまま酷くなってもよくなることはないのであれば近くにホテルでも取って移動するかと思案しはじめた時だった。
「戴天ッ」
声とともに手が引かれた。目の前を何かが飛んでいく。強風で煽られた看板か何かが横ぎったようだった。
「ぼんやりするな、危ない」
走ってきたのか息を荒げた宗雲が、戴天を怒鳴りつける。いや今更看板がぶつかったぐらいでどうにかなる体ではない。確かに他人に見られるのは厄介かもしれないが、そんなものと文句を言おうと顔をあげて、宗雲の目が真剣すぎて口をつぐんだ。ふ、と力を抜く。
「ありがとう、ございます」
一応は助けられたのだ、礼を言わなければ。咄嗟にそう思って声に出すと、はたと我に返ったのか宗雲があたふたと焦る顔を見せる。
「い、いや。俺も、いきなり怒鳴って、すまなかった」
ふと沈黙が落ちる。
「どうしたんだこんなところで」
「仕事でした。あいにくとこの後の予定はなくなりましたが」
どうしたものかとため息交じりに言うと、宗雲は少し思案する顔になった。
「帰りの足の予定は?」
「それもさっぱり」
「そうか、とりあえず安全なところ、うちの店でよかったら来ないか?」
「営業、するんですか?」
素朴な疑問を口にすると宗雲が肩をすくめた。
「まさか、予約客にキャンセルの連絡を入れるためだ。だが、誰か一人は詰めていないといけないからな。一人ぐらい一緒にいても構わない」
「なるほど、お言葉に甘えようと思います」
災害時に必要ない意地を張るほど無意味なことはない。そう割り切って戴天は宗雲の誘いを受けることにした。
雨宿りにと入ったものの、戴天は現在ウィズダムで予約客にキャンセルの連絡を飛ばし、従業員に今日は休みでいいと連絡をする手伝いもさせられている。無料より高いものはないことは理解しているので戴天もおとなしく従う。
「かなりの損失になりそうですね」
食材もいくらかは駄目になりそうだし、臨時休業なのはだいぶ大変だなと同情する。
「天候だけはどうしようもないからな」
ぽつりとつぶやくと戴天が少し考えこむ。
「どうした?」
「いえ、なんでも。天候を操作出来れば面白いと思っただけですよ」
「それは高塔の支配欲か?」
「想像におまかせしますよ」
天候すら支配下に置きたいというのはなかなかだなという。ただ声にいつもの刺々しさはない。そういう男だとわかっている。心地いい空間だった。
「腹が減っただろう、何か作ろう」
「できれば、手の汚れないものを」
「わかった」
宗雲が席を立つと同時に、戴天は自身のスマホに手を伸ばす。会社への連絡はメールで飛ばし、あとは雨竜に連絡を入れる。
「ああ、自宅には戻れたのですね」
電話の向こうでこちらを心配している様子に少し笑う。
「大丈夫です。親切な方に雨宿りさせて頂いていますので、ええ帰れるようになればメールで連絡を入れます。先に寝ていてください」
今日中には帰れないだろうなと思う。窓の外の景色はもう別世界のようで何も見えないほどひどい雨だ。打ち付ける雨と風の音がこの場所を切り離しているかのようだ。
「……雨竜君が無事で本当に良かった」
外の天気のひどさに弟の無事を喜ぶ声は心から弟を思う兄そのものだった。