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    ran_yumishita

    @ran_yumishita

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    ran_yumishita

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    思いついたヤツ 殊塗同帰の意味はやり方が違っても結局一緒っていう……。

    殊塗同帰「ああ、あなたですか。はい? ええ、急に何ですか?」
     社長室で資料を確認している戴天に電話がかかってきた。雨竜はそわそわしたものを感じながら戴天を見る。いかにも不機嫌という口調ではあるものの、どことなく声が明るい。親しい相手なのだろうか。誰なのか気にしながら耳を澄ましていると、トン、と指で机を叩く音がした。
    「いえ、午後は……しつこいですね。話は……ッ」
     何か頭痛を堪えるような顔で戴天がうつむく。
    「雨竜君、午後、中央地区にいく用事がありましたね?」
     声からしてただの確認だ。雨竜は開いていたスケジュールを確認する。
    「はい、商談予定は、14時から15時半まで、その後本社に戻って会議、開始時間は16時半になります」
     移動に一時間とったのは少しでも兄に休んで欲しいからだ、とはいえ、車の中でも書類を読むような男だ、休めるとは限らないけれど足を止めて目を閉じる時間を少しでも用意したかった。それなのにと雨竜はそわそわと戴天を覗き見る。兄は少し思案しながら頭の中で自分の予定を組みなおしているように見える。その様子が少しも嫌ではなさそうなのが、また雨竜を嫌な気分にさせる。
    「午後の商談の後なら、10分程度、でも渋滞だったら無理ですよ。何か? 3分でもかまわないんですよ? ……そういうところですよ」
     はぁ、とため息をつく声がする。
    「では仮面カフェで、15時半過ぎに、予定が押せば無理ですからね」
     手早く電話を切った戴天に雨竜は心配そうに声をかける。
    「社長」
    「兄さんで大丈夫ですよ」
    「兄さん、ノアさんですか?」
     エージェント相手にしては随分荒い対応だったなと思いながら念のため尋ねる。戴天は笑って首を横に振った。
    「まさか」
     では誰だと聞こうとして、雨竜は口をつぐむ。なんとなく口にしてはいけない気がしたし、戴天も追及されたくなさそうだった。
    「少し、カオスイズムの情報交換がしたいと言われたので、雨竜君は気にしないでください」
     嘘ではないが本当のことでもない、そんな気がした。
    「じゃあ、僕も」
    「雨竜君はノアさんに資料を渡して確認してきてもらえますか。ライダーステーションの新機能を数種、予算も含めて仮で作りましたので、見積もり前の商談として話を通しておいてください」
     工数は不明瞭なので希望を聞いてから、詰めましょうと、仮の追加機能の案の資料を渡された。
     さらっとそういう書類が出てくるあたり、何か用意周到さを感じてしまう。だが、こうなると兄は絶対に口を割らないし、真実も教えてくれない。雨竜はおとなしく引き下がることにした。胸のもやもやは晴れなかった。
    「雨竜君?」
    「はい」
    「迷惑をかけます」
     困ったような顔。この顔をされると弱い。どんな不満も苛立ちも兄にこの顔をされると出すことはできなくなってしまう。兄には兄の事情があって、自分はそれを受け止められられると思われていない。力不足を暗に指摘されている、そんな気がしてしまう。
    「いえ、もっと僕が強くなって、兄さんを支えられるようになったら教えてください」
    「……ッ。ふふ、ありがとうございます。雨竜君は今でも自慢の弟ですよ」

     商談が思ったより早く終わり、仮面カフェには予定より5分早くたどり着いた。戴天は何でもないような顔をしてレオンに待ち合わせの客が来ているか確認していた。どうやら先にVIPルームにいるらしい。レオンが複雑そうな顔をしていて、戴天が苦笑していたのが印象的だった。
    「私だって多少は、私情を挟まないで会話できますよ」
     レオンはスーパー執事だけに何かしら事情を知っているのだろうか。戴天がそれよりもノアさんに相談がと雨竜を促す。雨竜は兄に渡された資料のコピーと、自分用にまとめた付箋まみれの原本を取り出してノアと話し始めた。それを横目で見てから戴天はVIPルームに向かう。
     ドアをノックして声をかけ、扉を開けるなり腕を思い切り引かれた。
    「んっ……んんっ」
     バタンとドアが後ろで締まる音と同時に唇をふさがれる。ぬるついた舌が口内を這いまわり、吸い上げられる。たっぷりと、男のしつこさを示すような長い時間口内をまさぐられようやく解放されたときには肩で息をするほどだった。気が付けばソファに座らされている。隣に座られて逃げられないように追い詰められている気がした。
    「あなた、何をやって」
    「嫌なら抵抗しろ」
     淡々というと、もう一度と顎を指で持ち上げられる。
    「用事があったのでは?」
     その手を押しとどめて話をさせる。抵抗にもならない抵抗だろうが多少は止まる理性を見せてくれたらしい。
    「もう済ませたが?」
     ラウンジ、ウィズダムの支配人は当然のようにそう告げる。
    「は?」
     何が起きたのかわからないと戴天は宗雲を見る。
    「お前に会って、キスしたかった」
    「カオスイズムの話があるのでは?」
    「ああ、そうか。雨竜にはそういうことにしたのか」
     戴天が、あくまで戴天の事情と言いたげな宗雲の顔を張り飛ばしてやりたいと心底思ったのは責められないだろう。飄々と、戴天を振り回す男に内心で舌打ちする。
    「いい加減に」
    「会いたかった」
     怒る気力も失せるほどに真摯な目で訴えられては、文句も出てこない。顔を合わせなければ苛立たないのに、会いたくてたまらなくなる。もう一度重ねられた唇を拒めない。
    「っ、うりゅ、くんに」
    「他の男の名を呼ぶな」
     弟でしょう、と反論する息を奪うようなキスを何度もしてくる。『抱き合う時間はなくてもキスはできるだろう?』そう言って呼び出された。どうしようもなく愛しい。どうしようもなく憎らしい。せめてもの嫌がらせにとギリと手の甲に爪を立てると、ようやく口を放してくれた。宗雲が爪を立てられた自分の手を舐める。その仕草がなまめかしくて戴天は目を反らす。
    「本当に、そのためだけに」
    「ああ。いや、そうだな、対価はいるな」
     楽しませてもらったと、数人の名前が書かれた紙を渡してくる。どこにでもある付箋、メモ書きのようなそれを戴天は目に焼き付ける。
    「カオスイズムとつながってるとおぼしき高塔の社員の名前だ」
     くしゃりと紙をポケットに押し込んだ。
    「早めに捨てろ、あまりつながりを見せたくない」
     誰が、誰にとは言わなかった。戴天は高塔の人間に見せたくないし、宗雲もウィズダムのメンバーに見せたくない。お互いのつながりはもう切れたという顔をしていなければならない。
    「後で燃やしておきます、名前はもう覚えましたので」
    「ああ、そうしろ。時間は大丈夫か?」
     ちらりと時計を見る。ここを出る予定の時間まではあと数分しかない。
    「あと、2分、ですね」
     小さくそういうと、宗雲の顔を見つめた。宗雲は戴天の視線にすこしたじろいだ。
    「私の次の休みは来週です」
     耳元でそういうと、宗雲は少し驚いた顔をした。その顔を見れただけでここに来た甲斐があったと戴天は微笑む。そして軽く肩を押すと力なく道を譲ってくれる。戴天は立ち上がって扉に向かって行く。濡れた口元を手で拭うと、扉に手をかける。
    「では、また」
     それだけ言うとVIPルームを出て行った。後に残されたのは宗雲だけ。自分が仕掛けたのに、最後は戴天にしてやられた気がする。お互い様というやつだろう。
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