うまく言えない愛し愛されるという体験を知らないわけではない。ただ、世間の言う男女の愛はおろか、サイラスは恋愛や性愛の類にはとんと疎く、そうだと言われて初めて気付くことが多かった。
「すまないが、︱︱」
断りの文句を口にすると時に女性は気を荒立て手を出してくることもあった。
こちらにその気はないのだ。そういった関係に至るには積み重ねが必要なはずで、勝手にこちらの意図も確認せず、思い込む方がおかしい。相手を卑下するでもなく事実を訴えたが、なかなか頷く者はいなかった。
「耳に聞こえのいいことばかり言うからよ」
プリムロゼもそのうちの一人だ。女心とはね、と続けてくどくどとありがたい講釈を垂れた彼女は、一通り話終えると満足した顔で酒を飲むべくして席を離れた。
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