悪戯とキス「ねぇ、おーぎ君カボチャ料理ってすき?」
「 は? 」
十月が終わりに近づくと、お菓子のパッケージがお化け仕様の物に変わったり、仮装した集団がテレビで取り上げられるようになったりと毎年恒例のお祭りの一つになっている行事がある。
「もうすぐハロウィンだからって母さんが張り切ってカボチャをいっぱい買ってきたんだ」
下平家も例外ではなく買ってきたカボチャが所狭しと山をつくっていた。
「へー、うちには関係ねー行事だからすっかり忘れてたわ、それで?」
「もしよかったら、うちに食べに来ない?」
「おー行く行く!」
(やった、おーぎ君が家に遊びに来る!)
今年のハロウィンは楽しくなりそうだと胸が弾んで笑みがこぼれた。
ハロウィン当日、今年は土曜日にあたり、にしなまちスワローズの練習が終わった後おーぎ君が家に夕飯を食べにくる事になった。
「今日はお世話になりますっ‼︎」
「いらっしゃいおーぎ君、鉋から君の話はよく聞いてるよ、今日は来てくれてあんがとね」
母さんはとても嬉しそうに出迎えてくれた。千葉から引越してきてなかなか友達ができなかった僕の事を知ってるからこそ嬉しいのかもしれないと思うと、なんだかなんともいえない気持ちになる。
「いえ、そんな…あ、これすごいですね!」
おーぎ君の視線の先には母さんお手製のジャックオーランタンが玄関に飾られていた。
「あんがとね、意外と簡単に作れるんだよ、そうだ!よかったら作ってみない?」
「え?いいんですか」
「もちろん!せっかくだし作ってみよう」
母さんの鶴の一声をきっかけにカボチャのランタン作りを3人でする事になった。
「まずは顔を下書きしてみよう!」
リビングに新聞紙を敷き詰めた後、カボチャとマジックペンを渡される。
(どんな顔にしようかな?)
悩んでカボチャをじっと見つめる。
「なあ、しもへー見ろよ!」
「 え? 」
視線を向けると、おーぎ君が持つカボチャは目が釣り上がり鼻が三角、口の部分がギザギザとした怒った表情が描かれていた。
「わー、それっぽい!」
「だろーお前のは?」
「ちょっと待って」
急いでペンを走らせる。
「できた!」
「おーいいじゃん!」
おーぎ君の描いた怒った表情のカボチャの隣に僕が描いた笑った表情のカボチャを並べる。
(なんだかまるっきり逆だな、これじゃあまるで…)
可笑しくなってクスリと笑う。
「よし、描いたらカボチャのお尻の部分を切り抜くよ」
危ないからとナイフを使う作業は母さんが手伝ってくれた。カットされたカボチャのお尻の部分から二人で種を取り出す作業をした後、母さんがカボチャの顔の部分をナイフで切り込みを入れていく。手渡されたカボチャの切り込み部分をそっと指で内側から押すと、ポコっとパーツが取り出せた。
「すごい、できた!」
「おーなかなかの出来じゃん」
二つのカボチャを並べると達成感に笑みが溢れる。
正反対な二つのカボチャが仲良く並んでいる姿を見ると、まるで、僕とおーぎ君みたいだと思って可笑しくなってくすりと笑った。
「じゃあそろそろお待ちかねのご飯にしようか」
母さんが機嫌よく料理をテーブルに並べていく。
「「おおお───‼︎」」
おもわずおーぎ君と2人歓声をあげた。
テーブルの上にはクリームシチュー、グラタン、パンプキンサラダ、ポタージュ、タルトなどカボチャを使った料理が勢揃いしていた。
「食え食えジャリども──‼︎」
母さんが豪快に笑う。
「ご馳走じゃねーか!今日お前の誕生日だっけ?」
「そういうわけでは……」
瞳を輝かせたおーぎ君がカボチャのクリームシチューを口に入れる。
「うまい!」
おーぎ君の満面の笑みを見て僕も嬉しくなりカボチャのポタージュに口をつける。
「おいしい」
クリーミーで濃厚なカボチャ本来の甘みが口の中いっぱいに広がり笑みがこぼれた。
途中で仕事から帰ってきた父さんも加わり、賑やかな食卓になる。
「気持ちのいい食べっぷりだね」
「母さんの料理が上手だからですよ!」
「そうだろうもっと食いな」
おーぎ君はご機嫌に料理をおかわりして食べた。
僕もいつも以上に箸が進んで料理が美味しく感じた。
友達と一緒に食べるご飯はとびきり特別で嬉しくて温かい時間に感じた。
食後、僕の部屋でゲームをする事になり、2人でランタンを抱えて部屋に向かった。
「なあ、せっかくなら電気消そーぜ!」
「うん!」
ランタンの中にあるキャンドルに火を灯した後、電気を消して部屋のカーテンを開ける。
「うわ、すげぇ!」
「うん、きれいだ」
窓から差し込む月明かりに照らされて、浮かび上がるジャックオーランタンの灯りが揺らめいて、とても幻想的な雰囲気に感じた。
おもわずじっと見入ってしまい沈黙が流れる。
「なあ、しもへー」
「うん、何?」
沈黙を破ったおーぎ君はイタズラな笑みを浮かべていた。
「トリックオアトリート」
「え⁉︎僕何も持ってないよ」
「ふーん、じゃあイタズラだな!」
「えっ、ちょっと待って、うわっ」
おーぎ君におもいっきり脇をくすぐられて、くすぐったさにその場でじたばたしてしまう。
「っ、あはは、本当にちょっとたんま」
「やだね」
戯れあってふざけあっていると、体勢が崩れて2人悲鳴をあげてベッドに倒れ込んだ。
「わっ!」
「えっ⁉︎」
自分にのしかかるおーぎ君の重みと何より頬に触れた温かな唇の感触に、状況を理解した瞬間顔が真っ赤に染まる。
「……わりぃ」
至近距離で見つめあった後、固まっていたおーぎ君が慌てて僕の上からどく。おーぎ君の顔も耳まで赤くなっていた。
「ノーカンだ、ノーカン!てかお前かよ、俺の初めての相手って」
「え、ごめん」
「いや、謝んなって俺がわりぃーし」
おーぎ君はばつが悪そうに頬をかいた。
(…おーぎ君、初めてだったんだ、悪いことしたな…そうだ!)
「ねえ、おーぎ君」
「なんだ?」
不思議そうな顔をするおーぎ君にそっと近づく。
「 へ? 」
目を閉じるとおーぎ君の頬に唇をそっとつけて離した。
「 なっ!」
おーぎ君は驚いて目を白黒している。
なんだか可笑しくなってくすりと笑う。
「これでおあいこだよ」
「……お前なあ」
おーぎ君は呆れたような顔をした後、可笑しくなったのか声を出して笑い出した。
僕もつられて一緒になって笑った。
ジャックオーランタンの淡い光が揺れるなか、笑い転げる2人を優しく見守るものは空高くのぼる丸い月のみだった。
HAPPY HALLOWEEN‼︎