母の友人として招かれた白髪の客人に一目惚れをしたので、彼の帰り際に薔薇を差し出してプロポーズをした。
微笑ましく見守る母と、激しく動揺する父を尻目に、流行りの詩を引用した口説き文句で精一杯の想いを告げる。
赤い目を開いてしばらく驚いていた客人は、幼い私の目線に合わせて片膝をついた。
「そうだな……プティタンジュ(小さな天使)、君が世界一の怪盗になった時、私のことを覚えていたのならこの薔薇を受け取ろう」
母には手の甲にキスを贈ったのに、私には頭を撫でて優しく笑った彼は、夜の風に白髪を靡かせて姿を消した。
受け取って貰えなかった薔薇の行方と、幼い恋と共に薄れてしまった彼の顔を、大人になった私はもう覚えていない。