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    こなものさんと吸血ンジさんの話?をしていたのを文章化しました。吸血ンジさん×夢女。リヴァハン前提。夢女視点。

    サンクチュアリ線路沿いの夜道にヒールの音が響く。
    仕事帰りの私の左手のコンビニ袋の中には、週末に食べようと買ったコンビニのピスタチオプリンとムラサキイモタルトが入っていて、歩くヒールのカツカツとした音がコンビニ袋のカサカサとした音と混じりあっている。
    それから右手にはライトをつけたスマホ。誰もいない、うらぶれた道で帰路を急ぐ。申し訳程度に明かりを灯す街灯には、名前も知らないろくでもない虫たちがいつものように群れている。


    今日は金曜だというのに気分は下がったままだ。
    私には昔からおかしな、前世の、としか言えない記憶があって、それはとても鮮明で妄想とは呼べない代物だ。誰にも言ったことはない。
    記憶の中には誰よりも鮮やかな人が存在している。憧れだと思い込もうとしたけど、私は結局はその人のことが好きだった。どんなときも、どんなことがあっても、光が差す明るい方に向かおうとする姿。発光するものに引き込まれて、近づきたいと思う気持ちは自然なもので、私は、街灯に群らがる虫に同情する。どこにでもいる冴えない兵士のひとりだった私は、その気持ちも、もちろん誰にも言ったことはなかった。

    いつかどこかであの人に会えればいいと思う気持ちは、日常に、運命とやらに悉く裏切られ、私は疲弊しきっていた。このままあの人に会うこともなく、ただのっぺりと続く日常を生き続けるのだろうか。仕事と自宅を行き来し、大昔に感じたような感情に動かされることもなくただすべてを終えていくんだろうか。
    暗い夜道で立ち止まって、私は街灯の虫を見上げた。早く帰るべきなのに、その光景から目を離せないのは何故なのか。




    突然、街灯がぐらりと揺れて傾いた。何が起こったのかわからなかった。わかるわけがない。
    街灯はあっという間に私の眼下に移動した。誰かに後ろから急に抱えられた私は、空を飛んでいるとしか思えない。あり得ない状況に青ざめた。全身の血の気がひいて、やめて、と言うことすら恐怖で声が出ない。そのまま私は、移動したどこかの屋根に乱暴に打ち付けられた。

    背中が痛いし、恐怖が大方の感情を占めていたが、とにかく状況を把握しなくてはと、私は思った。私を抱えて飛んでいたのは、どんな化け物なのかと私は暗闇で目を凝らした。ひょろりと細くて、どうやら人間にしか見えない。髪を乱雑に後ろに束ねていて、眼鏡をかけているのがわかった。ハァハァと興奮した息づかいが聞こえる。こいつは何かをすごく我慢していて、でも欲しくて欲しくてたまらないのだ。切羽詰まった呼吸でわかる。やはり恐怖でさっきから一言も声が出ない。助けてと大声で言いたいのに言えない。


    暗闇の中でそいつが口を開いた。
    「………っ、ごめん、……ごめんね………」

    女の声がして、私は余計にわけがわからなくなった。身体中が痛いし、恐怖で声も出ない状況に追い込んでおいて、どうして謝るのだ。言葉と行動がちぐはぐすぎて理解が追い付かない。
    そいつは私のシャツの襟を乱暴に両手でひっ掴み、私を押し倒しながら言った。「私だって、……こんなこと……したくはないんだよ………ねぇっ…」


    矛盾した言葉を聞きながら、相手の顔を見る。
    それほどの至近距離まで来なければわからなかった自分が情けないのだが、暗闇の中にぼうっと浮かび上がった顔は、それは紛れもなく、私が会いたい会いたいと切望したあの、ハンジ・ゾエだった。
    切迫していてわからなかった声は急に懐かしく、長い睫毛も、困ったときに少し下がる眉毛も、特徴的な鼻だって、記憶のとおりだった。ただひとつ違うのは、ハンジさんの唇の中には長い牙があった。

    「お願い……、お願いだ、逃げてくれ……私から」
    ハンジさんは涙目で私に懇願する。顔を歪ませ、苦悶の表情を浮かべて。そして、その言葉と反比例するようにハンジさんが私の襟を、首を、締め上げる力がだんだん強くなる。

    それで私はすべて理解した。理解した上でこのまま抵抗しなくていいと思う自分はおかしいのだろうか。狂いそうなほど会いたかった愛する人間が、いや、吸血鬼が、私を欲しくてたまらないと言っているのに? たとえば私が、このまま逃げ隠れて一体何が残る?


    首を締め上げられて意識が飛ぶ前に言わなければ。
    私をあなたに捧げるって。私は声を振り絞った。

    その言葉を聞いたハンジさんは涙を流した。同時に何かがぷつりと切れたように、無茶苦茶な力で私を引き寄せて、私の首に前後不覚に噛みついた。
    ハンジさんの牙が私の中に侵入する。ハンジさんの荒い吐息が私の耳元で聞こえる。ハンジさんの柔らかい髪が私の頬に触れる。ハンジさんの腕が震えながら私の全身をきつく締め上げる。ハンジさんの中に、私が吸収されていく。
    痛みと恐怖で硬直した身体から力が抜けて、だんだん意識が遠くなる。


    ハンジさんの荒い呼吸がおさまって、私はゆっくりと屋根の上に横たえられた。私を覗き込む鳶色の目からは涙が相変わらずこぼれていて、大粒の涙は私の頬に、首筋に、胸に、ぽたりぽたりと落ちる。さっきまでの殺気立った目とは全然違う、優しい目をしている。ハンジさんの口の回りは血まみれで、本当に我慢の限界だったのだろうとわかった。ハンジさんは何度も私に小さな声で、ごめん、ごめんよ、と呟く。
    いいんだよ、ハンジさん、私はあなたの仲間になりたい、昔は名もない兵士だったけど、これからは昔よりきっともっと役にたってみせるから、お願い、と言いたいけど言えない。力が出ない。




    そのとき誰かの声が聞こえた。
    「………………ハンジ」
    聞き覚えのある声。壁内の人間が人類最強と讃えた人。小柄な影を見て、リヴァイ兵長だと確信した。この人は今もなおハンジさんのそばにいるのだ。どうしようもない嫉妬のような感情に、急に胸がかきむしられる。

    私を見て泣いていたハンジさんが顔を上げて、立ち尽くしているリヴァイ兵長を見る。ハンジさん、って名前を呼びたい。いやだ、ねぇこっちを、お願い、私を見て。だけど顔中血まみれでぼろぼろ泣いているハンジさんは、リヴァイ兵長を見つめる。何かにすがるように、許しを乞う者のように。

    「リヴァ…………、こ、この子は………」
    ハンジさんが言い訳をする子供のような声で言った。
    それからリヴァイ兵長は、私を悲しそうに見た。そんな哀れんだ顔で見ないでくれ、ちがう、これは私が望んだことなのだとリヴァイ兵長に言い返したかった。

    リヴァイ兵長は意を決したようにきっぱりと、でも小さな声でハンジさんに言った。
    「コイツは………このまま殺してやれ。……これ以上、俺たちみてぇな奴が増えねぇように。それからこれは俺が勝手に決めたことだ。お前がこんなことをしたのは初めてだったし、お前はもう限界だった。オイ、ハンジ。お前は何もしていない。いいな……?」
    「………………っ、リヴァ………っ……」
    ハンジさんはとうとう小さく声を上げて泣きじゃくり始めた。




    ねぇ、仲間にしてくれないの……? 二人にそう聞こうと思った。だけど大量の血を失った私の唇は間の抜けた金魚のようにパクパクと動くだけで、何の音も紡ぐことができない。
    せめて最後にハンジさんの顔が見たい。だけどしゃくり上げて泣いているハンジさんはリヴァイ兵長に抱き締められていて、全く顔が見えない。

    この二人はこうして共犯者になって、このままきっと二人だけで地獄をいくのだろう。二人には二人にしかわからない聖域があって、二人だけが抱える罪がある。きっと誰にも触れることができない。例え私が命を捧げたって、そこに入り込むことなどできないのだ。ずっと昔から、そしてこの先も。
    だけど、私がハンジ・ゾエを愛した気持ちだって、誰にも汚すことはできない。


    もう一ミリも体を動かせない。どうすることもできない私は、すぐそばにあるコンビニ袋から飛び出したピスタチオプリンとムラサキイモタルトを、ぼやけた視界で見た。こんなものが人生最後に見たものかと思うと、泣きたいのはこっちなのではないのかと思いながら、私は瞼の重さに耐えきれなくなって、目を閉じた。永遠に。未来永劫。




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    coitealight

    DONEこなものさんと吸血ンジさんの話?をしていたのを文章化しました。吸血ンジさん×夢女。リヴァハン前提。夢女視点。
    サンクチュアリ線路沿いの夜道にヒールの音が響く。
    仕事帰りの私の左手のコンビニ袋の中には、週末に食べようと買ったコンビニのピスタチオプリンとムラサキイモタルトが入っていて、歩くヒールのカツカツとした音がコンビニ袋のカサカサとした音と混じりあっている。
    それから右手にはライトをつけたスマホ。誰もいない、うらぶれた道で帰路を急ぐ。申し訳程度に明かりを灯す街灯には、名前も知らないろくでもない虫たちがいつものように群れている。


    今日は金曜だというのに気分は下がったままだ。
    私には昔からおかしな、前世の、としか言えない記憶があって、それはとても鮮明で妄想とは呼べない代物だ。誰にも言ったことはない。
    記憶の中には誰よりも鮮やかな人が存在している。憧れだと思い込もうとしたけど、私は結局はその人のことが好きだった。どんなときも、どんなことがあっても、光が差す明るい方に向かおうとする姿。発光するものに引き込まれて、近づきたいと思う気持ちは自然なもので、私は、街灯に群らがる虫に同情する。どこにでもいる冴えない兵士のひとりだった私は、その気持ちも、もちろん誰にも言ったことはなかった。
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