イッツワークス 枕元で人の気配がして、しのぶはゆっくりと目覚めた。
見慣れない天井と乱れたシーツの硬さ、まぶたを閉じていても伝わる、遮光カーテンの隙間から漏れる朝の光。
そっと目を開けると、後藤が音を立てないようにシャツを羽織っているところで、しのぶの顔を見ると温かな笑みを向けた。
「レイトチェックアウトにしてあるから、寝てなよ」
「ええ……」返事をする声は枯れ気味だ。昨夜、耳元で聞こえた自分の嬌声をぼんやりと思い出して、確かに声も枯れるだろうと納得する。身体はくたくたで、腕は重く、世界に乳白色の霧が掛かっているようだ。
それでもなんとか目を上げて「もう行くの?」と後藤に尋ねた。ベッドサイドのデジタル時計が告げる時刻は午前七時八分。ここ湾岸からならば、高速を使えば職場まで二十分掛かるまい
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