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    GoodHjk

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    【巽零】同室if|英零を含む

    ##巽零

    汝、不徳の隣人を愛せよ1:introduce

     扉を開けてくださったのは、英智さんでした。三度控えめな調子でノックをしたのですが、それから十数秒もの間応答がなかったものですから、これは音が小さすぎて聞こえていないか、或いはそもそも室内に誰もいないか、そのどちらかだと合点して、せめてもう一度だけ、今度はもう少ししっかりと戸を叩いてみようと決意を新たにした矢先のことでした。
    「やあ。いらっしゃい、風早くん」英智さんは一瞬目を丸くしたものの、すぐに平生どおりの穏和な微笑を浮かべて一歩後退し、道を譲ってくださいました。「どうぞ、入って。すまないね、荷造りにはもっと時間がかかるものと思っていたから、歓迎の用意がまだ終わっていないんだ。現に白鳥くんは荷物が多すぎて、部屋と廊下を何往復もしていて本当に大変そうだったからね。ああ、掃除は君のベッドを運び込ませた時に併せて済ませておいたよ。ほら、あれが君のベッド。その向こうにあるのが朔間くんのベッドで、仕切りを挟んで、僕のベッド。……さあ、どうか寛いで。今お茶の支度をするからね」
     淡々と簡素に説明を済ませて、英智さんは戸棚に向かってしまいました。『フレイヴァー』でご一緒した際にティーカップを蒐めるのが趣味だと仰っていましたが、なるほど、棚の中にはずらりと瀟洒な茶器が並んでおりました。これでも彼のコレクションのほんの一部に過ぎないのでしょう。俺はなるべく静かに扉を閉めて、改めて部屋の中を見回しました。俺のベッドは晃牙さんと生活していた時とまったく変わらぬ様相で佇んでいました。あとは、持参した聖書やロザリオ、聖母像などのわずかな身の回りのものを収納すればすっかり元どおりです。
     もう一人の隣人である朔間零さんは、自身のベッド端に腰かけて、何やら物思わしげに腕を組んでいらっしゃいました。ご挨拶をしようと思ったのですが、目を閉じていらしたので、思索の邪魔になってしまうかと考え、先に英智さんと話をすることにしました。とりあえず少量の荷物をベッドの上に置き、茶葉を選んでいる英智さんの横に並び立って、支度を手伝う意思をお伝えしました。
    「君はゲストなんだから、気を遣ってくれなくていいのに。あそこで暇を持て余しているおじいちゃんの話し相手にでもなってあげたら?」
     ティースプーンで茶葉を量り取る手元を注視したまま嘯く英智さんは、どこか面白がっている風情でした。
    「おじいちゃん……もしかして、朔間零さんのことを指しているのでしょうか。どうやら考え事をなさっているようだったので、お邪魔をしてはいけないと思いまして。それに、俺はゲストではありませんよ。今日からここであなたがたと共同生活を送る身です。作業も分担させてください」
     ちょうど沸いた湯を注ごうと俺がケトルに手を伸ばした時、後ろから「誰がおじいちゃんじゃ」と、本当におじいちゃんみたいな声がかかりました。年経りし巨木の梢が夜風に吹かれてさざめくような、心底を優しく撫ぜるような、低く嫋やかな声音の聴こえた方を振り向くと、先刻まで一人沈思なさっていた朔間零さんが、細腰に片手を当てて、いかにも不服そうに眉をひそめて立っていらっしゃいました。
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    GoodHjk

    DONE【渉零】新衣装の話
    天性回遊 でも、つかまえて『夜のご殿』を出たとたん、青い鳥はみんな死んでしまいました。
     ──モーリス・メーテルリンク『青い鳥』




     ひと言で言い表すならば洗練された、瀟洒な、或いは気品溢れる、いずれの賛辞が相応かと択ぶに択ばれぬまま、密やかに伸ばした指先で、コートの広い襟をなぞる。緻密に織り込まれた濃青色の硬質な生地は、撮影小道具であるカウチの上に仰向けに横たわる男の、胸元のあたりで不審なほどに円やかな半円を描き、さながら内側に豊満なる果実でも隠し果せているかのように膨らんでいる。指先を外衣のあわせからなかへと滑り込ませると、ひと肌よりもいっそう温かい、小さな生命のかたまりへと触れた。
     かたまりが震え、幽かな、くぐもった声で抗議をする。どうやら貴重な休息の邪魔をしてしまったようだと小声で詫びを入れれば、返ってきたのは、今し自堕落なそぶりで寝こけていた男、日々樹渉の押し殺した朗笑だった。床にまで垂れた薄氷の長髪が殊更愉しげに顫えている。この寝姿が演技ならば、ここは紛れもなく彼の舞台の上であり、夕刻になって特段用もなく大道具部屋へ赴く気になったことも既に、シナリオの一部だったのだろう。
    1993