Recent Search

    GoodHjk

    スタンプ?ありがたきしあわせです‼️

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🎃 ⚰ 🚑 🚨
    POIPOI 23

    GoodHjk

    DONE【渉零】新衣装の話
    天性回遊 でも、つかまえて『夜のご殿』を出たとたん、青い鳥はみんな死んでしまいました。
     ──モーリス・メーテルリンク『青い鳥』




     ひと言で言い表すならば洗練された、瀟洒な、或いは気品溢れる、いずれの賛辞が相応かと択ぶに択ばれぬまま、密やかに伸ばした指先で、コートの広い襟をなぞる。緻密に織り込まれた濃青色の硬質な生地は、撮影小道具であるカウチの上に仰向けに横たわる男の、胸元のあたりで不審なほどに円やかな半円を描き、さながら内側に豊満なる果実でも隠し果せているかのように膨らんでいる。指先を外衣のあわせからなかへと滑り込ませると、ひと肌よりもいっそう温かい、小さな生命のかたまりへと触れた。
     かたまりが震え、幽かな、くぐもった声で抗議をする。どうやら貴重な休息の邪魔をしてしまったようだと小声で詫びを入れれば、返ってきたのは、今し自堕落なそぶりで寝こけていた男、日々樹渉の押し殺した朗笑だった。床にまで垂れた薄氷の長髪が殊更愉しげに顫えている。この寝姿が演技ならば、ここは紛れもなく彼の舞台の上であり、夕刻になって特段用もなく大道具部屋へ赴く気になったことも既に、シナリオの一部だったのだろう。
    1993

    GoodHjk

    DONE【巽零】雰囲気La MortAU|本編後捏造|最初から最後まで妄想
    夜半噤む果実 残寒余寒と言うにふさわしい季節のはずが、その夜はひどく吹雪いて、文字どおり一寸先も伺えぬような荒天が行手を塞いでおりました。日中はほろほろと、暗澹たる風情で肩に積もる程度だった氷雪が、俄かにその勢いを増しはじめたのは、まだ日が暮れて間もない時分だったと記憶しています。或いは、目的地である教会で、日没を報せる鐘が遠く、重々しい間隔をあけて、厳かに鳴り響いたのを耳にしてからでしょうか。それとも、首都より遠路遥々旅をしてきた俺が、ようやくこの町へ足を踏み入れたのと殆ど同刻か──それは言うなれば、まるで、町自体が侵入者を阻もうとでもするかのように。
     元が寒冷な土地であるゆえに、居並ぶ家屋は黒々として硬質な、分厚い木材を隙間なく組んで建てられていて、それがまた取りつく島もない怜悧な趣を感じさせます。道の端には掻き分けられた泥混じりの雪が膝ほどの高さに固まっており、俺が町の門をくぐった頃には、道路にも歩道にも見境なく積雪しだして、たちまち足首までもが雪中に沈んでしまいました。不幸なことに、俺の靴は防水靴でも防寒靴でもなく、法衣と揃いの革靴でしたから、下衣の裾も靴下も無惨に、凍てる水気にやられ、歩くごとに痛みさえ覚える始末でした。町人はみな、この悪天候を察していたかのように息をひそめて、暗夜迫る通りには影ひとつ、灯りひとつ見受けられません。
    7550

    GoodHjk

    DONE【巽零】同室if|英零を含む
    汝、不徳の隣人を愛せよ3:exorcist



     零さんはまず、テレビや音響機器などの各種備品の使い方から、戸棚にストックしてある茶葉やお茶菓子に至るまで、この空間のことをひととおり丁寧に教えてくださいました。
     教わった規則といえば、夜は夜更かし(主に零さんのことみたいです)をしても騒がしくしないだとか、朝も同居人(これも主に零さんのことみたいです)が寝ている時は静かに支度をするだとか、他人と暮らす上では基本的とも言って然るべき決まり事ばかりでしたが、中でもお茶菓子を切らしたらすぐに買い足すというお約束は特に重要なようで、破ると英智さんに口酸っぱくお叱言を言われてしまうそうです。
     室内を粗方見回ったあとはバスルームを案内していただくことになっていたのですが、その前にベッドの上へ見苦しく放ったままの荷物を片付けてしまうことにしました。業者の方が併せて運び込んでくださったと思しきラックへ聖書やら、幼子を抱く聖母像やらを簡単に並べていると、喋り疲れて舌を休ませていた零さんがぎょっとしたように目を瞠りました。そのあまりに露骨な表情の変化は、本能的に危機を察知した小動物の反応にどことなく似ていて愛らしくさえあったのですが、当人は大まじめで、俺がたった今整えたラックを震える指でさして「おぬし、やっぱり天祥院くんのスパイだったのかや? いざとなったらその神聖極まる法具で吸血鬼である我輩を成敗しようという魂胆じゃろう」などと言い出したので、俺は心底驚いてしまいました。
    1854

    GoodHjk

    DONE【巽零】同室if|英零を含む
    汝、不徳の隣人を愛せよ2:roommate



    「いつも自分で言っているじゃないか。ところで瞑想は終わったのかい、朔間くん。ちょうどよかった、僕が三人分のお茶を淹れている間に、風早くんにこの部屋を案内してあげてくれないかな。そうしたら、僕に扉を開けさせたことを大目に見てあげよう」
     零さんは、もともと顰めていた顔をいっそう曇らせて、これ見よがしな溜息をつきました。まだご挨拶も済ませていないうちに面倒をおかけすることはとても得策とは思えず、俺はケトルを一旦英智さんに任せて、零さんのおそばへ向かいました。
     以前ステージの上でお姿を拝見したことはありますが、こうして互いに平服のまま、差し向かいでお話をする機会はこれまでなかったものですから、些か緊張してしまいました。それに、彼の弟である凛月さんと、旧館ではじめてお会いした時にも感じた、あの摩訶不思議な禍々しい気配が近寄るほどに強まっていくので、俺はつい口癖のように祈りの文言を口走ってしまいそうになり、慌ててそれを堪えたのでした。近くで見る零さんは、舞台上でお見かけした時よりもずっと温徳なご表情をなさっていて、『魔王』と称されるにふさわしい、あの燃えるような真っ赤な瞳も、多少の疑念を孕んではいたものの、親しみさえ覚えるくらいには温かく煌めいていました。
    1454

    GoodHjk

    DONE【巽零】シャワールーム
    猫足とモザイクタイル 首筋で緩慢と気まぐれに弧を描く濡羽色の髪、血肉の透けるほどに蒼白い肌、ほんのりと上気した靱やかな長身痩躯をここで見かけるのはこれで二度目だった。ちょうど設備を利用し終えたところだったらしく、湯に濡れそぼる身体のままぞんざいに開いた個室の扉から剥き出しの半身を覘かせている。分け目を見失い好き放題枝垂れる前髪の隙間から、平生よか幾らか丸みを増した紅玉がこちらを向いていた。ぶつかり合った視線を動かさぬまま目の前の簡素な椅子に置いてあるバスタオルを手探りで求める朔間零の、黒髪から絶え間なく滴る雫を映像か何かのように眺めながら脳裏に思い描いていたのは、一度めの邂逅の事だった。
     一日の終点と翌日の始点、夜と朝のあわい、日も昇らぬうちのシャワールーム。明け方に憂鬱を募らせ目を覚まして手持ち無沙汰に寝返りを繰り返し、結局二度寝を諦めて軽く荷物をまとめ、ふらりと外に出た。何とはなしに目指したのは活動拠点であるビルディング、その八階にある共有設備である。半ば夢うつつでロッカールームの間を縫い、脱衣スペースに足を踏み入れた瞬間、何だか妙に禍々しい気を個室の一つからひしひしと感じて、携帯しているロザリオを翳し退魔の文言を並べ立てながら勢いよく扉を開け放った先で茫然と立ち尽くしていた男。退化した翼に酷似した肩甲骨、精緻な珠を連ねた脊椎、湯煙を纏って紅潮する蒼褪めた皮膚。過激と背徳を背負う自称吸血鬼はその後否応なく夢から醒め非礼を平謝りする聖職者を寛容に宥免したのだった。
    4704