Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    まさのき

    とんだりはねたり、もいだりかじったりします。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 9

    まさのき

    ☆quiet follow

    ロードトゥザトップ3話配信記念再録!どうかアヤベがアヤベにやさしくなれますように。

    夜が明けるまで一緒にいよう「オペラオーちゃん、起きませんねえ」
    「そう。じゃ、ここに置いていきましょう」
    「アヤベさんってば……」

     困ったように笑いながら、トップロードさんは手慣れた様子でオペラオーを背に負った。目をこすりこすり立ち上がったドトウが、手を添えてそれを支える。トップロードさんもドトウも、オペラオーも、誰かに手を差しのべることにまるで躊躇がないのだから、始末に負えない。息をするように自然に他人に優しさを向けて、なんでもない顔をしている。私にはそれが、少し眩しい。
     穏やかに寄せる波間が、高く昇った太陽のきらめきを映して揺れている。海に向かってゆるやかな傾斜になっている砂浜を、いつもより短い歩幅で、私たちは歩き始めた。背中で呑気に寝息を立てている小さな王様を気にしてか、彼女の歩みはことさらにゆっくりだ。
     あきれるほどのお人好し。そんな言葉が、喉の奥でため息に変換されて吐き出される。
    「そんな人騒がせ、放っておけばいいのに」
    「ふふ。ありがとうございます、アヤベさん」
     礼を言われる筋合いがわからず、私は困惑する。表情で怪訝を訴えると、トップロードさんは目を細めて、いたずらっぽく笑った。
    「心配してくれたんですよね?」
     海からくる風が、私たちの髪の毛をふわり、巻き上げる。そんなわけないでしょと言い返してやりたくなったが、なぜか無性に頬が熱くて、苦しまぎれに私は顔をそむけた。トップロードさんはずり落ちてきたオペラオーを背負い直しながら、こともなげに言う。
    「大丈夫ですよ。オペラオーちゃん、とっても軽いですから」
    「……あなたが、いいなら。私はいいけど……」
     寝不足の目に、砂浜の照り返しが眩しい。四肢も関節もひどく熱を持っており、浮ついた心地がするうえ、やたらと喉が乾く。そもそもこんな時間まで四人で海にいて、私たちは何をやっているのだろう。夏合宿の時期でもないのに。
     けれどさらに奇妙なことに、私はこの身体のけだるさを、どこか心地よく感じてもいるのだった。

    (……誰も彼も、みんな、お人好し)

     関係ない他人のことなど、放っておけばいいのに。少なくとも私はそうしてきた。私は今まで、己を取り巻くさまざまなつながりから目をそらして、使命のためだけに生きてきた。それは自分の負うべきことではないと思っていたから。あるいは、自分にはとても負いきれないと、そう信じ込んでいたから。私は、親切を受けるに値しない人間で、だからこそ、私はひとりでよかった。ずっとひとりで、走っていたのに。
     気がついたら、誰かが隣で私の名前を呼んでいた。
     無視して走り続けても、声は大きくなるばかりで、いつしか私はたくさんの人の輪の中に立っていた。置き所のわからない私はいつも、輪のはじっこにちぢこまり、そっぽを向いてむくれていた。それでもいいと、笑ってくれた誰かがいた。まっすぐに伸びた静かでさみしい道に、ひとすじの光が差して、私は目を細める。
     
    (みんな、私を放っておいてくれない。うるさくて、猥雑で)

     ――でも、それが、いいんでしょう? お姉ちゃん。

    (自分勝手。お節介。走りに関係ないことばかり。人の気も知らないで)
     
     ――私、うれしかったよ。お姉ちゃんが楽しそうで。お姉ちゃんが、笑ってて。

    (私は親切でも優しくもないから、気にかけてもらっても、何も返せない)

     ――ばかだなあ、おねえちゃんは。

     風が、もう一度。
     私の頬をなぞっていたずらっぽく巻きあがった。
     吹き去る方向に目を向けると、遠くで彼らが私に手を振っていた。

    「あ……タクシーが来たみたいですぅ」
    「帰りましょう、アヤベさん!」

     駆けてゆく背を見送りながら、私はもう一度だけ、かなたに広がる天上の景色を振り仰いだ。高く昇った太陽が、あたらしく生まれいずる朝の輝きで、私の目を射抜く。

    (星。……もう見えない)

     それでも、いいのだろうか。私には、あの子の声はもう聞こえない。あの子はもういない。この世界のどこにも。けれど、あの子がかざしてくれた小さな星明かりは、今も消えずに、この胸のうちにある。
     明るい日差しを身体じゅうに受けて、私は笑った。
     はじめて微笑みを教えられた人形のようにぎこちなく、けれど心からの笑顔で、私はそこにいた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    まさのき

    PASTポップメガンテ前後のif話です。ディーノは父さんと幸せに暮らすことでしょう。あとたくさん人が死ぬ
    生きもののにおい『まあおまえの匂いは日向のキラーパンサーってとこだな』
    『―――は―――のにおいがするよ』
    『なんだそれ。全然説明になってねえじゃねえかよ』


     
     ぼくが「こわい」って言ったら、〈とうさん〉がぼくをこわがらせるものをみんななくしてくれたので、それで、ぼくはうれしくなりました。
     
     ここに来てからは、こわいことの連続でした。
     知らないおねえちゃんや、おにいちゃんが、ぼくにこわいことをさせようとします。あぶないものを持たされたり、つきとばされたりして、ぼくはすごく心細いおもいをしました。ぼくは何回も、いやだっていったのに。
     それで、ぼくは頭の中で、「こわい人たちがぼくをいじめるから、だれか助けて」ってたくさんお願いしました。そうしたら〈とうさん〉が来てくれて、こわい人たちをみんないなくしてくれました。〈とうさん〉はすごく強くて、かっこよくて、〈とうさん〉ががおおってすると、風がたくさんふいて、地面がぐらぐらゆれます。気がついたときには、こわいおねえちゃんも、よろいを着たひとも、大きいきばのいっぱいついたモンスターも、誰もぼくをいじめなくなりました。
    1965

    recommended works